この秋、全国の焼き肉店からレバ刺しやユッケなど、牛肉を生で食べるメニューが一斉に姿を消した。きっかけとなったのが、「焼肉酒家えびす」が起こした腸管出血性大腸菌O-111による食中毒事件だった。
4月末、富山、福井、神奈川で「ユッケ」を食べた117名が食中毒に感染し、5人が死亡。運営会社のフーズ・フォーラスは7月に廃業した。
事件そのものも話題になったが、大きな関心を呼んだのは勘坂康弘・元社長その人だった。
発覚直後の5月2日、「生食用の肉というのは日本に流通しておらず、加熱用の肉を殺菌のうえ、店の責任で調理するのが慣例」と説明した。続けて切り口上でこう語ったのがあまりに印象的過ぎた。
「それを踏まえ、法律で禁止すればいい。すべきです。禁止していただきたい!」
これには「開き直りだ」と批判が殺到。さらに、その3日後には4人目の死者が出たことを聞かされ、玄関先でいきなり土下座を披露。これもまた「パフォーマンスが過ぎる」と大バッシングを受けた。
以来、勘坂氏はマスコミとの接触を断った。
その後、知人を通じてインタビューを打診し続けて、「正確に報じてもらえるのなら」と、勘坂氏が応じたのは、一連の騒動から2か月が経過した頃。単独でメディアに登場したのは、唯一、本誌インタビューだけだった。
当時の記事には掲載しなかったが、勘坂氏はマスコミへの不信感を、こんな言葉で語っていた。
「しつこく追い回されるのはまだ我慢できます。でもひどいと思うのは、思わず感情的になって出てしまった発言を『逆ギレ』として、そこだけテレビ画面で何度も報道された。死者が出たと聞いて、気が動転して思わず土下座したら、その場面をまるで反省のないパフォーマンスのように繰り返し流す。本当にマスコミは怖いと思いました」
勘坂氏はいま、知人の飲食店の経営を手伝いつつ、再起を図っている。
※週刊ポスト2011年12月23日号