10月末に、1ドル=75円台まで急騰したドル円相場は、政府・日銀の巨額円売り介入で、78円前後で推移している。これまでの介入ではトレンドが変わるほどのはっきりした効果が出た例は少ないが、今回はどうか。為替のスペシャリストで酒匂エフエックス・アドバイザリー代表の酒匂隆雄氏が解説する。
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2011年10月31日に行なわれた、政府・日銀の円売り介入の規模は、1日としては過去最大の7兆円台後半と報道されている。だが、これは表向きの数字であり、覆面介入やそれ以後の介入を含めると、9.5兆円から10兆円に上ると見られている。
単独介入であったことや、それ以後の米ドル/円相場が、あっさりと77円台に戻ってしまったことから、効果については疑問視をする向きが多いようだが、私は、この介入を甘く見てはいけないと思っている。
2011年に入ってから、介入は3回目となり、3月の協調介入、8月の単独介入で実施された介入額と合計すると、約15兆円のドルを政府・日銀は買ったことになる。これは、ほぼ年間の経常収支の黒字額の1.5倍に達する規模だ。単年度だけで見れば、日本は約5兆円もの外貨不足に陥っていることになる。
現状は、ギリシャ危機がイタリアに飛び火する懸念があり、EUの債務問題はすぐに片付くことではない。また、米国の景気も力強さを欠いており、当面は消去法的な円買いが続くと見るのが妥当だろう。
しかし、2012年に入って、そうした海外の懸念が薄らいで来れば、為替市場における需給に目が向き、これまで行ってきた円売り介入が冷酒にように効いてくるはずだ。
また、今回の介入を仕掛けた側も注目される。安住淳財務相は介入発表時の会見で、「納得のいくまで介入する」との方針を強調したが、このコメントは額面通りに受け取れると思う。
というのは、現在の財務省の事務次官と、介入を直接指揮する国際金融局のトップが、過去の大規模介入において、現場の担当者だったからである。その介入とは、ひとつは1995年の「ミスター円」と呼ばれた当時の榊原英資財務官が指揮した介入であり、もうひとつが2004年初頭に同じく「ミスタードル」と呼ばれた溝口善兵衛財務官による35兆円規模の介入だ。つまり、為替市場と通貨介入を熟知した人物が、財務省のトップと現場の責任者に就いているのである。
介入後、欧米の金融当局者から、日本の円売り介入に対して文句が出た影響か、市場では覆面介入を継続していると見ている。この介入はドルを押し上げようというものではないが、今後、円相場が円高の防衛ラインと想定される75円台後半に近づけば、再びある程度の規模を伴った介入をしてくるのではないか。
※マネーポスト2012年新春号