ベストセラー『がんばらない』著者の鎌田實氏は、長野県の諏訪中央病院の名誉院長でもある。チェルノブイリや震災のボランティアに取り組んできた氏が、日本医療における勤務医不足の問題点を解説する。
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行政刷新会議の仕分けが4日間の日程で行なわれた。医師不足の問題も取り上げられた。病院に勤務する医師が不足し、勤務医の過酷な労働実態についても言及されたのだ。OECD(経済協力開発機構)34か国の中で日本は極端に医師が少ない。人口1000人当たりで2.2人。下から6番目だ。
実は、医師数は17年前に比べて20%ほど増えている。麻酔科は51%、精神科は42%、皮膚科は27%、眼科24%、いずれも増である。しかし産婦人科や外科は10%ほど減っている。
訴訟リスクがあったり、救急患者が多い科などは敬遠されているのだ。しかし、これは大都市の問題で、地方の病院の問題は刷新会議でいっさい触れられることはなかった。地方の医師不足こそが深刻な問題なのに。
山形県の小国町立病院では、5人いた医師のうち、産婦人科と外科の常勤医師がいなくなった。5人が3人になると当直を回していくのも大変である。一度回らなくなると、医師たちは肉体的にも精神的にも悪循環になる。
また熊本県の山都町立蘇陽病院も、現在の4人から1人減るかもしれないと、町民が心配していた。40人医師がいる病院で1人減るのと、4人の病院で1人減るのでは、大きな違いである。
地方の医師不足にはいくつかの理由がある。大学の医学部を卒業すると研修医になるが、現在、大学病院で研修する人は47%。以前はほとんどが大学病院に残ったので、地方病院に医師を派遣できたのだが、それができなくなった。地方の病院に回されると、忙しくなるばかりか、自分の研究に没頭できなくなると、半分以上が大都市の臨床研修病院での研修を望む。
たとえ、いったんは地方病院に赴任して地域医療に身を投じても、自身の子どもの教育など家族の問題が生じて、都市部の病院勤務を願い出て去っていくのだという。年収の差もある。開業医の平均年収が2755万円に対し、勤務医は700万~1700万円。
病院側も手をこまねいて待っているわけではなく、医師確保で必死だ。日本病院会の調査によれば、1病院当たり年間平均して、767万円を人材あっせん業者への手数料として払っているのである。大学などへ1000万円以上もの寄付金を払っていた病院は15病院にも上ったという。ノドから手が出るほど、医師がほしいのだ。
※週刊ポスト2011年12月23日号