文筆家で女性用アダルトグッズショップ「ラブピースクラブ」代表の北原みのり氏が書く「ガラパゴス化した日本のセックス」。第二回目は、アダルトグッズでもっとも売れているモノを取り上げます。
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今、日本のバイブは、世界ではまるで売れていない。1970年代、ペニスに生えたオジサンとオジサンに抱きつく熊、という衝撃的な二股デザインと、繊細なモーター力で女のオナニーレボリューションを起こした日本のバイブですが、今や世界で売れているのは、TENGAだけ。日本といえば、バイブの国だったのに……。
ちなみに、今、一番売れているジャパニーズバイブは、アダルトグッズではなく、HITACHI製の真面目なマッサージャーです。特にアメリカのバイブ屋では100%と言っていいほど、HITACHIの電マを売っている。アメリカ人の女友だちは、「I LOVE HITACHI(ハイタチーと発音してます)!!!!」と心の底から言っていたけれど、彼女は日立が家電から原発まで作る日本を代表する企業だとは知りませんでした。
まぁ、とにかく。日本のアダルトメーカーがつくるバイブが、世界の市場から消えているんです。
この10数年で、世界は激変しました。バイブ屋もインターナショナルを求められる時代です。ガード下で酔っ払い相手にクマンコを売る時代は終わったのです。
その先鞭を付けたのはヨーロッパでした。セックスグッズに投資する資本家や、セックスグッズにキャリアをかけるデザイナーなんて人たちが、21世紀になりどんどん出てきました。彼らは資本家からお金を集め、中国に工場を設立し、キッチン用品などを手がけるデザイナーを雇い、デパートで売れるようなセックスグッズを、どんどん作りはじめました。
一方日本では、バイブは公序良俗に触れる危険物。決して巨大なお金が動く世界ではなく、スタイリッシュなデザイナーがデザイナー魂を賭ける場所でもない。日本のバイブ屋は、たいていこう言います。
「オシャレなバイブより隠微な方がいいんだよ。女も本当はそれを求めているんだよ」
たかがバイブ、たかが道具でしょ? 素材がよくて、ウォータープルーフで、充電式で、デザインもクールで、1年間のメーカー保証がついている家電なみのバイブの方がいいに決まっているっ! と私などは思うのですが、なぜかバイブそのものにエロティシズムを投影する人が、とても多い。
まるで「下品なものをヴァギナに入れている」という状態に興奮するために、バイブが作られているかのように。
一方、TENGAはどうでしょう。男性が使うオナホールのTENGA。プニプニの素材にこだわり、最高級のローションにこだわり、見た目にあれだけこだわった男向けのオナニーグッズ。TENGAはそのこだわり故に、世界的な成功を収めました。
世界中のアダルトグッズショップで、TENGAはレジ前に置いてあります。男は、もう、ホール物に女のリアルを求めない。女を求めていない。それはまるでステーショナリーのような、シンプルなグッズ。生理用品のような軽やかさ。オーガズムは日常茶飯事なのです。
そして、私の疑問はまた再び。なぜTENGAの国の人たちが、バイブにはグロテスクさと猥雑さとリアリズムを求めようとするのでしょう。そこには、女の欲望や、女の視線は入っているんでしょうか。
日本は世界で唯一、バイブよりも、男性向けオナニーグッズの売り上げが上回る市場、と言われてます。つまりは、カップルで使うバイブや、女だけで使うバイブよりも、男一人で使うホール物やダッチワイフの市場の方が、断然大きい。
一つ数百円から高くて2000円くらいのオナホールが、アダルトグッズ全売り上げの7割を占めていると言われています。女性の気持ち良さや、カップルで遊び楽しさを追求するバイブより、男のオナニーを完璧に満たすものに全力を注ぐ。それが今の日本の男的、な現実なのかもしれません。