【書評】『社畜のススメ』/藤本篤志著/新潮新書/714円(税込)
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〈サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となることである〉。著者はこう規定し、若いサラリーマンに〈社畜になれ〉と勧める。
世に数多く流通するビジネス本、自己啓発本の類とは全く正反対の主張である。そのココロはどこにあるのか。
コンサルタントでもある著者の観察によれば、凡人がまだ社会人として未熟な時代に「自分らしさ」を追求すると、組織の中でうまく機能せず、個性ならぬ〈孤性〉ばかりが身につき、結局「口ばっかりの若手社員」や「夢見がちな転職難民」となってしまう。確かにそういう若手が多い、と肯く中高年は多いのではないか。
この「自分らしさ病」の悲劇は以前にも指摘されたことがある。数年前にベストセラーとなった『下流社会 新たな階層集団の出現』(三浦展著、光文社新書)によれば、やはり「自分らしさ」志向の強い若者ほど正規雇用にありつけず、低収入ゆえに結婚もできない傾向が目立つという。
そもそも、この「自分らしさ病」は日本の学校教育を覆ってきた。「詰め込み教育」に対する反省から「ゆとり教育」を導入し、子供の「個性」を大切にするようにした、というのがそれだ。
だが、周知のように子供の学力は低下し、社会に適合できない若者を大量生産した。同様に本書も、〈孤性化〉したサラリーマンが増えることで日本企業の組織力は衰える、と警鐘を鳴らす。
若い世代からは反感を買うだろうが、「自分らしくあれ」といった耳触りのいい建前が横行する日本の社会に一石を投ずる異色のサラリーマン論である。
※SAPIO2011年12月28日号