2012年の世界の金融情勢は、米QE3(量的金融緩和第3弾)を皮切りに、「究極のグローバル金融緩和」が実施され、「歴史に記録される年になるだろう」というのは、元ドイツ証券副会長の武者陵司氏だ。では、世界経済、日本経済にグローバル金融緩和が何をもたらすのか。以下、武者氏が解説する。
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新時代のグローバル金融緩和は、金融市場を通じて、国債を含むさまざまな資産を買い上げることで、信用創造を生むことが主な政策手段となっている。これは、金利操作が主な政策手段とされてきた中央銀行からすると、禁じ手、いわゆる「非伝統的手段」と見なされるものである。
金融当局および金融市場では、こうした非伝統的手段は、現在のような非常時でこそ正当化されうる、と考える向きが多数派であるが、果たしてそうか。私は、市場へ直接介入し、資産価格の変動を通じて、インフレやデフレ、景気をコントロールすることが、新時代の中央銀行に求められる「正統的手段」ではないかと考えている。
中央銀行が民間銀行を通じて信用創造を行なっていた間接金融の時代は、金利操作が主たる政策手段であった。しかし、今は直接金融の時代となり、企業は自らの信用力で市場から資金調達している。
企業だけではない。今回のギリシャ危機で判明したように、国家も市場から資金を調達しなければならず、資金調達の如何は、国家の信用力によって市場が決めることとなる。ギリシャの場合は、国家の信用度が資金調達を可能とするレベルを下回ってしまい、EUから金融支援を受けることになったわけである。
こうした時代にあっては、量的金融緩和を非伝統的手法として謗るのは誤りだろう。中央銀行は、積極的な市場への直接介入を通じて、信用創造を図るべきなのである。
こうした一連のシナリオが現実化すれば、為替市場にも大きなインパクトを与えることは必至だ。
2011年、円は米ドルに対して史上最高値を更新し続けていたが、それは、ひとえに欧米と比べて日本の金融緩和が物足りないからである。グローバル金融緩和に巻き込まれ、政府・日銀が本腰を入れて金融緩和に踏み切れば、おそらく、円高はピークアウトするだろう。
少なくとも、「QE3」(量的金融緩和第3弾)の実施によって米景気が本格回復してくれば、グローバル投資家のリスク・オフ・ポジションが解消され、円の売り戻しが起こるはずだ。過去、米ドルの実効為替レートの推移を見ても、ほぼ10年周期で安値を付けている。チャートからは、すでにその安値からの反発局面に入りつつあることがうかがえる。いったん円安トレンドに移行すれば、長期間にわたって円安局面が続くのは間違いない。
円安になれば、日本のデフレも早晩解消に向かうはずである。円安は、日本の労働者所得の実質的な切り上げに結び付くため、個人消費の購買力が増大する。まず、これがデフレ脱却の強力な推進力となろう。
さらに、現状の1ドル=70円台の円高でも、日本企業はやっていくことができている。円安になれば企業収益は飛躍的に増大し、株価も上昇するはずだ。円安→企業収益拡大→株価(資産価格)上昇という好循環で、日本を長らく苦しめたデフレから脱出することでできるだろう。そして、デフレ脱却自体が、さらなる円安を誘発する。
世界的に割安状態に置かれている、不動産、金融セクター、さらには円安メリットを享受できる輸出関連株などが著しい上昇を見せると予想される。
世界経済にとって、そして日本経済にとっても、目先の困難を克服した後には、壮大な新時代の幕開けが目の前に迫っているのかもしれない。
※マネーポスト2012年新春号