現役を退いて数十年経つ今でも、野球への情熱は燃え上がるばかり。まだまだ若い者には任せられん! そんな球界の重鎮が日本のプロ野球にモノ申す。ここでは阪急ブレーブスの名将・上田利治氏の主張を聞こう。
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今年は横浜のDeNAへの売却が話題となりました。1988年、阪急がオリエント・リース(現オリックス)に売却された時に私は監督をしていたので、球団の複雑な心境はよくわかります。
しかし今回の横浜と阪急のケースの本質は違います。
阪急は経営が苦しい中、親会社が最後までファンや現場のために奮闘し、売却にあたっては、「ブレーブスという名前を残す」「監督は上田のまま」という条件をつけた。新しい球団に対するファンの拒否反応を最小限に抑えるためです。私が売却の事実を知らされた時、小林公平オーナーは「(ファンや選手との)信頼と友情をなくす結果になって申し訳ない」といってくれました。
TBSからは、こうした思いが感じられなかった。経営のお荷物となっている球団が売れればいいとばかりに、現場やファンが置き去りにされていたように見えました。
同じ身売りでも、ブレーブスにいた人間は、阪急に対して恨みはない。今でも「いい球団だった」と振り返れます。むしろ、苦しいながらにフロントはよく現場のことを考えてくれたし、現場としては満足のいく成績を上げられずに申し訳なかったという思いさえあるくらいです。
私は阪急最後の試合で、「ブレーブスはファンの皆さんの物です」と挨拶しましたが、阪急ファンも同じ思いだったのではないか。果たして今回の横浜身売りでは、同じような思いをファンが持ってくれたでしょうか。
新たな企業が球界に参入してくれるのは大いに結構なこと。ただ、何度も親会社が変わるようでは困りますし、現場やファンが置き去りにされてはいけない。球団経営の在り方を今一度、考え直す時期に来ていると思います。
※週刊ポスト2012年1月1・6日号