好きな人ができたとき、彼の姓の下に自分の名前を続けて書いて、うっとりしたり照れたり。こんな甘ずっぱい思い出を持つ人は少なくない。
愛の成就とは結婚であり、彼の姓に変わることであり、それが幸せなのだと、信じてきた女性も多いだろう。少数の婿養子という例外もあるけれど、私たちの親の世代も、そうして家庭を築いてきた。
ところが、そんな「婚姻の制度は古い」と一喝するのが、ベストセラーとなった『失楽園』で知られ、大人の恋愛マスターともいえる作家・渡辺淳一さん(78)だ。
この程上梓した『事実婚 新しい愛の形』(集英社)では、北欧やフランスなど、社会的に事実婚を認めている国の例を紹介しながら、日本人の結婚観や婚姻制度がいかに古く、現代を生きる人たちの実情に合っていないか、を説いている。
「日本の婚姻制度は明治の時代からの、古い形がそのまま引き継がれている。いまを生きる人たちは、おいしいものを食べたいとか、いいものを着たいとか、そういうことにはとても意欲的なのに、なぜこんな古い制度や考え方を変えることに意欲的ではないのか。日本人の貪欲さは、なぜ経済的なことにしか向けられないんだろう。残念です」(渡辺さん)
柔和な表情とはうらはらに、口調は厳しい。
「嫁という字は、女偏に家と書きますね。これは、“夫の家の女になる”という意味にほかならない。そこからもわかるように、結婚とは、家と家の結びつきで、嫁に行く家と迎える家があり、家の持続が大事とされてきた。愛し合う男と女の気持ちではなくてね。こんなおかしなことってありますか。でも、その古い、おかしいことを喜んで受け入れてきたのが日本人。それをいまだに引きずっているんだから、不思議でならないんですよ」(渡辺さん)
※女性セブン2012年1月5・12日号