大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回はやらせ業者の存在が明るみになった「食べログ」問題から、「2012年のほめ方」を考えます。
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新年早々、大きな話題になっているのが「『食べログ』やらせ問題」です。「食べログ」といえば、多くの人がデートや飲み会の店を探すときに重宝している飲食店の人気ランキングサイト。
ところが、サイト内での順位や評価を上げるために、特定の飲食店と契約して、好意的な口コミの投稿を請け負う業者がゾロゾロ存在していました。運営するカカクコムの発表によると、昨年末までに39業者が確認されたとか。
そういった「やらせ」の噂は前々からあったし、そもそもネットの情報は眉に唾をつけながら見るのが大前提ではあります。しかし、「食べログ」は「善良な市民からの本音」を集めているというのがウリであり、そのランキングは大きな影響力を持っていました。
今後、どういう対策を取っていくのか、はたしてやらせを根絶することはできるのか、悪評高いAmazonのレビューなどにも問題が波及するのか、いろいろ興味深いところです。
今回の件で、もっとも大きな痛手をこうむったのは、やらせとは無縁で、自力で高い評価を得ていた飲食店かも。ユーザーはしばらくのあいだ、高い評価の飲食店に対しては反射的に「ここも、やらせをやっていたのでは?」という目を向けそうです。
また、お客が本気で感激して絶賛の書き込みをしても、お店としては「う、うれしいけど、頼んで書いてもらっていると思われたらどうしよう……」とヒヤヒヤせずにはいられません。
おそらく、コトは「食べログ」の中だけにとどまらないはず。2012年の日本は、ホメるのが難しい世の中になるでしょう。「あの課長さん、どういう人?」と尋ねられて、「いやもう、立派な人格者で仕事もできて」と手ばなしでホメたら、相手は心の中で「お前は『食べログ』のやらせ業者か!」と突っ込んで、むしろウソ臭く響きそうです。
気に入った飲食店を勧めるときは、なおさらのこと。お互いに今回の件を連想して、本気なのにウソ臭い会話にならざるを得ません。まったく、迷惑な話です。
しかし、困難な状況を逆手に取って利用してしまうのが大人のしたたかさ。本気で人やモノやお店をホメたいときには「一銭ももらっていない私が言うんだから、間違いありません」とか「ここまで言うとまるでやらせみたいですが、本気でそう思います」といったフレーズを付けて、しゃれっ気をにじませつつ信憑性を増幅しましょう。
きっと当の「食べログ」の口コミ欄でも、しばらくのあいだこういう言い方が流行るに違いありません。ちなみに、利害関係があって無理にホメているケースでも、大いに活用できます。
あるいは、さんざんホメたあとで「ホメっぱなしだと、どっかのやらせみたいなので」と前置きしつつ、当たり障りのないマイナス情報を織り交ぜれば、本音をぶつけ合ったような深い情報をやり取りしたような気になれるでしょう。ちなみにこちらの手法も、無理にホメなければならないときに使うと、さらに真価を発揮します。