「原子力村」の原発再稼働に向けた動きが急だ。福島第一原発については、野田首相が震災から9か月後の12月半ばに「事故収束」を宣言し、定期検査中の原発に関しては、ストレステスト後、地元の同意を得て動かし始めるための根回しが開始されている。
経団連は「原発の再稼働が極めて重要」と提言し、鉄鋼、造船大手が加盟する労働組合「基幹労連」が政府に早期再稼働を求める要望書を提出した。各界一丸となって「なし崩し再稼働」に動く中、保守政治家の立場で「NO」を突きつけるのが渡辺喜美・みんなの党代表である。
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これからのエネルギー政策の上でも、経済活性化の面でも、今こそ日本には大胆な「電力の自由化」が必要だ。
事故後も「原発再稼働」のくびきから逃れることができずにいるのは、巨大な電力会社が地域住民の電力供給を事実上独占していることに原因がある。
一般家庭向けの電力供給は自由化されていないため、東京都民は東京電力、大阪府民は関西電力など地域の電力会社としか契約できない。そこで、発電と送配電を分離して自由化し、料金を競争させる。
ちょうど、国民が引っ越しした時、インターネットの回線業者をNTTやソフトバンクなど複数の業者から選択し、さらにプロバイダも多くの会社から選ぶことができるように、電力もそれぞれ複数の「発電会社」や「配電会社」から選べるようにする。そうすれば価格競争で電気代は大きく下がる。
現実に、大口需要家向けの電力はすでに一部自由化されており、例えば、(東京都)立川市では2010年度から市営競輪場の電力供給をPPSと呼ばれる特定規模電気事業者の1社と契約したところ、年間の電気代が6300万円から4600万円へと、東電と契約するより約3割も安くなった。そこで立川市は、2011年度は競輪場の他、小中学校30校をはじめ多くの市の施設への電力供給先を入札で選んでいる。
こうしたPPSは全国に47社あり、年々増えているが、まだまだ規制が多い。
まず発電所の建設で、大手の電力会社と差が付けられている。東電は震災後、電力不足を補うために、火力発電所を数か月間で次々に建設した。発電効率が高くCO2排出も少ない天然ガスコンバインドサイクル発電所も建設しようとすればすぐにできるが、PPSがそれを建設しようとすると、工事だけなら半年で済むのに、その前にアセスメントが3年、許認可に3年が必要で、完成まで合計7年間かかる。
さらに、PPSは契約先に電気を送るために大手電力会社の送電網を利用しなければならず、高い「託送料」を取られてコストアップになる。
そうした不利な条件があるのに、立川では東電より安く電力が供給できている。だから、規制を思い切って廃止し、一般家庭もPPSと契約できるようにして競争させれば、電力料金は劇的に下がるはずである。
そのための第一歩として、東電を解体すべきだ。現在の原発事故賠償スキームは、東電が被災者に賠償金を払い、政府は公的資金で経営を支えるという東電救済を優先したものになっている。だから東電も財務省も賠償金が少ないほうが助かると出し渋り、被災者のためになっていない。その賠償費用も最終的には電気料金などで国民に転嫁される。果たしてそうまでして東電という企業を残す必要があるのか。
東電の資産は発電所や送配電網など簿価で5兆円ある。むしろ、東電を発電部門、送配電部門などに解体して売却すれば必ず買い手はつくし、賠償資金もでき、発送電分離という電力自由化の大きなテコになる。発電所や送電網を運営する事業者が変わるだけで、国民への電力供給が滞る心配はない。
電力自由化を進めれば、新たなビジネスに参入しようと次々と民間企業が新しく発電効率の高い発電所を建設し、安い電気が買えるようになって、原発を抱える会社が売っている高い電気は需要が減り、自然と原発が淘汰されていくと考えられる。
みんなの党では「2020年に原発は自然淘汰」という電力自由化を柱にした脱原発政策を掲げているが、このような「電力革命」を起こせば、もっと早く脱原発を達成することも可能だろう。
※SAPIO2012年1月18日号