2011年9月に発売された『サッポロ一番 ちゃんぽん』は、発売からたった5日間で当初予想の1か月分の出荷を達成。製造ラインはフル稼働状態が続き、「売れ行きは予想の3倍。当初年間20億円としていた販売目標を70億円に変えました」と開発に携わったサンヨー食品マーケティング本部・末光登氏(41歳)は嬉しい悲鳴をあげる。
「即席麺というのは、実は昔からある定番ブランドがほとんどを占めている、成熟した市場です。変わらない味が安心感につながり、消費者に求められてきたのです。しかし、メーカーとしてはそこに安住せず、選ぶ楽しさを提案したいと考えてきました」
「即席麺」について、ちょっとおさらいしておこう。商品ジャンルは大きく分けて「カップ麺」と「袋麺」の2つ。お湯を注ぐカップ麺と、茹でて作る袋麺。実は、対照的な個性がある。
「カップ麺は、常に新味や刺激的な工夫を提案し続けるジャンル。各社が新商品を競い合っている激戦区です。それに対して、袋麺のほうはいわば、保守的と言ってもいいでしょう。カップ麺と比べると、新商品の提案は9対1ほどしかありません」
なるほど。特に袋麺『サッポロ一番』は揺るがない定番としてトップシェアを誇ってきた。塩、味噌、醤油、とんこつ味のスープ+縮れ麺。変わらないからこそ価値があるという世界。逆から言えば、ロングセラーに頼ってきた分野。その安定した定番世界にあえて新顔を登場させた。
同社がまず挑戦したのは、「担々麺」。2010年7月に発売すると、予想の2倍が売れた。成熟しきった市場でも、新しいアクションをすればきちんとリアクションがある、と実感した開発チーム。いよいよ、「ちゃんぽん」の開発へと邁進していった。
「ちゃんぽんのハードルはさらに高いものでした。というのも、ちゃんぽんの麺はもちもちした食感の太麺で、まっすぐでなければならないからです。従来と違う麺を作るために、新技術を駆使し、製造ラインを一から設計し直しました。独特の食感を出すため素材の配合も細かく変えて試行錯誤を重ねました」
「縮れ麺」から離れることには想像以上の苦労があった、と末光氏。
「縮れた麺は、蒸す時は均等に熱が通り、フライにする時は麺どうしがくっつかず、からっと揚がる。茹でるとほぐれやすい。大量生産のメリットが詰まったいわば完成した形状なのです」
それを敢えて「捨て」て、「ストレートな太い麺」を実現するために、構想含めてなんと3年もかかったという。
※SAPIO2012年1月 18日号