週刊ポスト連載時から大反響を呼んだ『あんぽん 孫正義伝』(佐野眞一著)が単行本として1月12日に発売となる。
佐野氏は<プロローグ>でこう書く。
<二〇一一年の十月五日、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズが五十六歳の若さで世を去った。
このとき世界中のパソコン世代が、ジョブズの早すぎる死を悲しんだ。ジョブズより二歳年下で、同じ“シリコンバレー世代”に属する孫正義は、ジョブズの死を知ったとき、「涙があふれて仕方がなかった」と語っている。また、死後刊行されたジョブズの評伝を読んで、「彼の歩んだ人生は、彼の偉業とともに永遠に輝き続け、人々に勇気を与え続ける」と絶賛している。
ジョブズの父親はシリア出身のウィスコンシン大学大学院生、母親も同大学院生という学生同士の結婚だった。母親はシリア人との結婚を父親に反対され未婚のまま出産した。ジョブズは産まれてすぐ里子に出され、貧しい機械工の子として育った。
ジョブズの生涯は、その複雑な出自と経歴からして物語性に満ちている。だが、孫がこれまで歩んできた人生は、ジョブズに遜色ないほどドラマチックである。
在日三世の孫は東大出のエリートではない。そうした連中が集まったライバル企業のNTTやKDDIとは、そもそもからして出自が違うのである。孫の一族は父方にしても母方にしても、世間的にあまり褒められる仕事をしてこなかった連中がほとんどである。
しかし、これまで書かれた孫の評伝で、孫の血脈を三代前まで遡って調べ上げ、現存する父方・母方の親族全員に会って取材したものもなければ、そのルーツを追って韓国まで取材の足を伸ばしたものもなかった。
さらに言うなら、孫に決定的な影響を与えた父親の安本三憲に長時間インタビューしたものもなかった。これまで書かれた孫正義の評伝は、孫のサクセスストーリーに目を奪われ、紋切型の記述に終始してきた。
私流に言えば、孫一族が経験してきた波瀾と被差別の歴史を、自らの体で受けとめ、それを全身で抱きしめる愛情と根性が欠けていたのである。
本書はこれまで書かれてこなかったこれらの事実を徹底的に追求し、その成果をすべて盛り込んだ。いささかの自負を込めて言うなら、本書は死の直後に刊行されてベストセラーになったジョブズの評伝に負けない面白さだと思っている。>
情報通信革命のトップランナーの実像に迫る、唯一の書といっていい。
(『あんぽん 孫正義伝』より抜粋)