昨年のヴェネチア国際映画祭で主演のマイケル・ファスベンダーが主演男優賞を受賞した話題作『SHAME』が、日本でお蔵入りになるところだった。理由はその過激なセックス描写だ。いったいどれほどスゴイのか。現在アメリカで大ヒット中の同映画を一足先に見てきた――。
冬のニューヨーク。男はバーでナンパしたスーツ姿のブロンド美女の車に乗りこんだ。画面が切り替わると、寒々しい屋外の空気を切り裂くように、男が欲情を爆発させていた。放置された看板に背をもたれかけている女に、立ったまま激しく腰を振る。その度に女の体は前後に揺れ、ギシギシという音と女の喘ぎ声が、街の騒音に溶け込んでいく――。
これは現在アメリカで公開中の映画『SHAME』のワンシーンだ。映画のテーマは「セックス依存症」。ニューヨークを舞台に“せずにはいられない”エリートサラリーマンの、セックスに明け暮れる日々が刺激的に描かれている。性器やヘアが露出するなど描写があまりにも過激すぎるという理由で、アメリカでは「NC(No Children)-17」という最も厳しい上映規制がかけられている。
「アメリカの場合、R指定は大人が一緒なら17歳以下の子供でも見ることができますが、NC-17を受けると大人が一緒でも見ることができない。この指定を受ける映画は5年に1本あるかないか。NC-17指定になると、ポルノ映画のように扱われ、映画館側が敬遠して上映館数が激減するので、興行収入は期待できなくなる。だから制作側もそうならないよう、問題箇所をカットするなど、気を遣うのが普通です」(LA在住の映画ライター・猿渡由紀氏)
アメリカで興行上、不利になるにもかかわらず「NC-17」規制を受け入れたことからもわかるように、監督は修整に易々と応じる人ではない。監督への説得は、およそ1か月に及んだ。
同映画のスティーブ・マックイーン監督がいう。
「ヘア部分が少しぼやけるくらいなら、と呑むしかなかったよ。映画をカットしたりする必要があるなら話は変わってくるけど、とにかく日本の皆さんに見てもらうことがとても重要だと思うから、仕方ない」
それを受けて映倫が『SHAME』を審査したが、R-18+での上映が決まったのは年末も押し迫った12月21日だった。上映まで約2か月あまり。通常、上映の半年前には終えているはずの審査が、これほどギリギリになるのは異例だという。
※週刊ポスト2012年1月13・20日号