現在、日本では不妊治療の患者数は推計で46万人を超えるといわれている。1983年に国内最初の体外受精による赤ちゃんが誕生。2005年には、全出生児の約1.8%が体外受精で生まれている。産婦人科専門医の宋美玄さんと、医療ジャーナリストの熊田梨恵さん。医療の最前線にいるふたりが、不妊治療について語り合った。
* * *
熊田:セックスのタイミングや頻度をアドバイスする「タイミング法」でうまくいかなければ、いよいよ人工授精ですか?
宋:そうですね。まだフレッシュな状態の旦那さんの精子を持ってきてもらって、処理して子宮の中に注入します。とはいっても精子を1時間以内に持ってくるのは難しい場合もあるので、そのときは病院で旦那さんに採精してもらいます。それでできなければ、精子と卵子を外に取り出した状態で受精させる体外受精です。
原則として女性に排卵誘発剤を投与して、たくさんできた卵子を吸い取ります。培養士と呼ばれる専門職が、取り出した卵子に精子を振りかけて、受精させます。
熊田:ここで受精に成功したら、一安心ですか?
宋:いやいや、受精した受精卵を子宮に戻すんですけど、3個戻したとしても1個以上が着床する確率は3割なんです。多く戻すと多胎になりやすいので、最近は基本的に1個しか戻しません。
熊田:えーっ! せっかく受精できても、着床するのはたった3割なんですか? まあ、自然妊娠の確率が3割だったことを考えれば一概に低い数字ではないのかもしれませんけど、体外授精をしたからといって高い確率で妊娠できるわけじゃないんですね。
宋:高齢になったらもっと着床率は下がって、40才以上になったら1割、45才過ぎるとゼロになります。人工授精は保険外診療なので医療機関によって値段は違いますけど、大体1回で10万円以上はしますし、高いところは結構な値段します。
これが何回も続いていくと金銭的な負担はもちろん、精神的に追い込まれてくるかたも多くおられます。頻繁に通院しないといけないので仕事にも影響して、不妊治療のために仕事を非常勤にした友達の女医もいましたわ。着床しても、必ず出産できるわけじゃなくて、トラブルも起こり得ますからね。
※女性セブン2012年1月19・26日号