実験施設「カミオカンデ」でニュートリノ天文学という新分野を開拓し、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士は、平成基礎科学財団で理事長を務めるなど、教育にも多大な関心を持っている。海外への留学経験を持つ小柴氏がいま、英語教育の重要性についてこう述べる。
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僕は英語で苦労しました。ロチェスター大学に留学した当初は、全然しゃべれなくて神経衰弱になりそうなぐらいでした。こっちの言うことは通じないし、相手の言うことは分からない。会う人ごとに、プリーズ・スピーク・スローリー・アンド、クリアリーと頼んでいました。でも習うより慣れろ、です。半年ぐらい経ったら何とか話せるようになりました。
でも、日本人の習った英語は、たいがいRとLの発音の区別がついていません。これは日本人特有の性質だと思います。僕自身、英語でケンカもし、ジョークも言うのですが、未だにRとLの区別がつきません。
人間には物覚えがいい年頃というのがあります。子供はどんどん新しいことを覚えていきます。英語の発音もそうです。理由を脳科学が専門の人に聞いてみると、RとLの区別がちゃんとしている社会に、10歳ぐらいまで暮らしていると、自然に脳の中にRとLを区別する回路ができるそうです。それを過ぎてから、いくらRとLを区別しようとしても、なかなか回路がつくれないと言うのです。
ですから英語を教えるのであれば、子供の頃に教えるのが一番効率がいいし、子供も余計な苦労なく英語を身につけられる。外国の子供たちと一緒に遊びながら自然に覚えるのが一番いいと思います。
ここで英語の話を持ち出すのは、学問をやる上で英語が非常に重要になるからです。特に自然科学をやろうという人にとっては、いくら日本語でいい論文を出しても、世界ではなかなか業績が認められません。どうしても英語とかドイツ語などで発表する必要があるのです。
日本の大学のレベルが最近下がってきたとの指摘がありますが、これも英語と無関係ではないかもしれない。私が昔から疑問に思っていたのは、一流の大学は世界に開かれていなくてはいけないのに、独立法人になる前の東大などの国立大学は、日本国の国籍を持っていなければ教授になれないという規定があったことです。外国人の教授がいないから、英語で行なう講義も少なかった。
でも世界に開かれた大学であるためには、英語で講義がとれるようになっていなければ駄目です。そうしたほうが、海外からどんどん留学生が来やすいし、東大にとっても東大の日本人学生にとってもいい。前に東大の総長にそんな話をして、最近になって東大でも英語で行なう講義が増えてきたと聞いていますが、これはとてもいいことだと思います。
※SAPIO2012年1月11・18日号