『モヤさま』伊藤P「上司の理不尽さ経験すべき」
2012年は「モヤモヤしながら」仕事しよう!? テレビ東京で人気のバラエティ番組「モヤモヤさまぁ~ず2」の「伊藤P」でお馴染みの伊藤隆行プロデューサーに「仕事」についてインタビュー。2回目は「上司の叱り方」。(聞き手=ノンフィクションライター・神田憲行)
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――伊藤さんは「上」とやりあうケースも多いみたいなんですが、上司と巧く喧嘩するコツってありますか。
伊藤:僕、不満が顔に出ちゃうタイプなんですよ。チーフAD時代には「なんだその顔は」って六本木の交差点で張り倒されたこともありますから(笑)。殴る・蹴る・モノが飛んでくるというテレビマンの最後の世代です(笑)。
ただ上司とは感情論で喧嘩しないのがポイントですね。サラリーマン社会なんで、感情論で上と対立して、「喧嘩両成敗」とはいかない。必ず下が負けます。
――しかし上司は感情論で言ってくるときもあるでしょう。
伊藤:ありますよ。でも三日間考えたことをその人の感情一つでかえられたら、そこで折れてしまうと三日間考えたスタッフを全部裏切ってしまうことになるので。
自分もそれに同意したわけですから、だから「そこには同意できません、なぜならこういうことだからです。そこは上司部下ということではなく、ひとつの番組を預かっている立場として申し上げるのですが、耳を傾けることはしていただかないと困ります。ないしは納得されないなら、みんなと向き合ってください」とはっきりいいます。
だいたい上がごねるパターンで多いのは「俺はそんな話聞いてねぇぞ」ですね。
――ちゃんと説明しているのに?
伊藤:そこは僕も怒ります。でも感情の言いっぱなしで終わるのは良くないので、必ずあとで上司と2人で会って説明します。そうすると上司も本音を言ってくれるんですよ。「収録現場に行ってお前に聞けばよかったんだろうが、みんなの前でそんなことするの恥ずかしい。だから今度からこっそり多めに俺に教えてくれ」とか(笑)。
本来は 上司なんだから無駄に喧嘩する必要もないし、不興を買う必要もない。でも若いときは上司の理不尽さ、無意味さを経験しておく必要もあるんですよね。
――なぜでしょうか。
伊藤:25歳でチーフADのときにディレクターの理不尽な指示を下のADたち伝えるんですが、「上がおかしいけど」ともいわない。自分が理不尽と思う指示を、下に自分の指示として言い換える辛さ。
どんどん下の子が離れていって、もの凄い孤独感に苛まれたことがあります。仕事もきつくて、妻からは「当時は別人みたいだった」と今でも言われますよ。でもいくら理不尽と思えても、あえて指示通りに動いて相手の方が正しいことがわかったりもするんですよ。
とはいっても自分が上でなったときに、下にあえて理不尽に当たる必要はないと思うんですけれど。
伊藤隆行氏プロフィール
1972年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒、テレビ東京プロデューサー。「モヤモヤさまぁ~ず2」「ちょこっとイイコト 岡村ほんこん しあわせプロジェクト」や、過去には「やりすぎコージー」など、同局の人気バラエティ番組の多くを手掛ける。著書に「伊藤Pのモヤモヤ仕事術」(集英社新書)