鶏のトサカが赤いのはなぜか?
今年の干支である「辰」は、十二支のなかでは唯一、実在の生物ではない。伝説上の生物とはいえ、口には長いヒゲ、ヘビのような胴体から伸びる脚には鋭い爪、そして頭に大きな角を生やしている姿はよく知られている。しかし、その角、「実はもともと龍のものではなかった」ということはご存じだろうか。中国事情に詳しいTS・チャイナ・リサーチ代表の田代尚機氏が、龍にまつわる中国の逸話を紹介する。
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中国の古い言い伝えによれば、昔の龍には角がなかったそうだ。そのころ龍は地上で生活していたが、飛ぶこともでき、百獣の王の座を巡って虎との覇権争いが絶えず、なかなか決着が着かなかった。「竜虎相打つ」である。
この様子を見た最高神・玉帝は、彼らを天宮に呼び出して、どちらが王にふさわしいか見極めることにした。この時、龍は自分も結構イケてると思ったが、正直、虎ほどの威厳はないとも感じていた。そこで龍の弟分であるムカデがこんな助言をする。
「雄鶏の角はとてもきれいだ。借りてきてつけてはどうか。そうすれば兄貴にも威厳が備わってくるぞ」
これを聞いた龍はたいそう喜び、さっそくムカデとともに雄鶏のところに向かった。
だが、龍の申し出を雄鶏は「絶対ダメだ」と断る。焦った龍は「もし俺が天から戻って、お前に角を返さないようなことがあれば、死んでお詫びをしよう」といい、ムカデも「もし兄貴が角を返さなければ、俺を食べても構わない」と口を添えた。この言葉を信じ、雄鶏は角を貸してやることにしたという。
なんと、あの立派な龍の角は、そもそも雄鶏の角だったのである。
まんまと角をゲットした龍は虎とともに天宮に行き、玉帝と接見。この時、玉帝はどちらも百獣の王とすることにし、虎は陸の王、龍は水の王と定めた。
めでたく地上に戻った龍だったが、心の中では「もしこれで角を雄鶏に返してしまうと、水の中の生き物たちはこんな醜い俺に従うだろうか」といった不安ばかりが募る。そこで雄鶏に角を返さないことを決めて、水中へと潜ってしまったのだ。
これに激怒したのが雄鶏である。雄鶏は真っ赤になって怒り、その怒りはいつまでも鎮まることはなかった。いまもニワトリのトサカが赤いのは、これに由来するといわれる。
さて、一方のムカデはどうしたか。雄鶏の様子を見て恐ろしくなったムカデは地中へと逃げ込んだ。その後、雄鶏は地中から這い出てくるムカデを見ると、誰彼構わず食べるようになり、当事者のムカデはなかなか地面に這い出てこられなくなったという。
そして、龍も雄鶏の報復を恐れて、いまでも地上に現われないため、伝説上の生物になったそうだ……。
ちなみに、これは中国ではよく知られた話らしいが、いずれにせよ、龍そのものの存在からしてあくまで伝説に過ぎないことはいうまでもない。