円高時代、低コストの海外生産に移行する企業が続出しているものの、日本国内での生産のメリットは、国内企業への対応に優れていることだけではない。海外市場に対して訴求力を持っている「メイド・イン・ジャパン」のブランド力を活かせる強みも実は健在である。
欧州での「日本製」の根強い威光を物語るエピソードがある。
地方の道路事情が悪いにもかかわらず、別荘暮らしを好むロシアでは、悪路走破性の高い三菱自動車のパジェロが圧倒的な人気を誇っていた。そんな中、三菱自動車は2010年からロシアでの乗用車の現地生産を開始。しかし、生産車種のラインナップに、パジェロは入らなかったのである。
「ロシア市場をマーケティングした際、“我々はロシア製のパジェロが欲しいのではなく、日本製のパジェロが欲しいんだ”という声が多く聞かれたため、パジェロは現地生産の車種には入らなかったらしい。高品質で壊れにくいというメイド・イン・ジャパンの高い評価が今も変わっていないことがよくわかります」(自動車業界関係者)
富士通は、日本を代表するパソコンメーカーということもあり、「メイド・イン・ジャパン」のブランディングに徹底してこだわる。
同社が国内で一貫製造しているパソコンは、ノート型を「出雲モデル」(島根県出雲市)、デスクトップ型を「伊達モデル」(福島県伊達市)と製造拠点の名を冠し、完全日本生産であることを積極的にアピールしている。そして海外出荷比率を70%にまで引き上げ、生産台数を2011年度の年間660万台から2013年度までに1000万台に増やす目標を立てている。
「アジアの市場は“とにかく何でも安いものが売れる”という傾向があるが、品質を重んじる欧州では日本製の製品に一定のバリューがある。実際、輸出先としては欧州向けが多い。今後はメイド・イン・ジャパンとはっきり表示することで、需要の底上げになると期待しています」(宇佐美・島根富士通社長)
※週刊ポスト2012年2月3日号