去る1月20日早朝、八ッ場ダムの地元・川原湯温泉で「湯かけ祭り」が行なわれた。紅白に分かれた60人の男がふんどし姿で源泉から湯をくみ、「お祝いだ(お湯湧いた)」と掛け合う奇祭である。
野田政権は昨年暮れ、公約だった八ッ場ダムの建設中止方針を覆し、「建設再開」を決めた。川原湯温泉は水没予定地の真ん中にあり、400年の伝統を持つこの奇祭も再来年からは移転代替地で行なわれる。
祭り以上に奇異だったのが、ダム建設再開決定の日の万歳三唱である。昨年12月22日、建設官僚OBの前田武志・国土交通相は事業継続を表明すると、その夜のうちに地元入りし、大沢正明・群馬県知事や地元町長、自民党議員ら建設推進派に万歳で迎えられた。国民に八ッ場中止をいってきた民主党の大臣が、建設推進派と一緒に“お祝いだ”と喜ぶ姿は民主党政権の変質を強く印象づけた。
その2日後、野田首相は政府・与党三役会議で八ッ場ダム建設を正式決定し、来年度予算にダム本体工事費を含む56億円(地方負担を含む総事業費約130億円)を盛り込んだ。
建設に抗議して民主党を離党した群馬の中島政希・代議士が語る。
「政府が再開方針を決める前から、地元工事事務所には国交省から前田大臣が来るという情報が入っていた。最初から再開ありきの役所のシナリオ通りで、一番喜んでいるのは役人です」
文/武冨薫(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年2月10日号