医師不足が深刻だ。特に、地方の診療所の人員不足が顕著であり、地域偏在が大きな問題となって横たわっている。これを解決する方法はないのか。大前研一氏が、その具体的施策を提案する。
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医師の不足や地域偏在の問題の元凶は、医師や病院が厚生労働省の管轄なのに、医学部を文科省が管轄していることにある。
このシステムのままでは、いくら医学部の定員を増やしても、あるいは医学部を新設しても、医師が人員不足の診療科や地域に行くとは限らない。医師の養成は「医療行政」の問題だから、医学部は他の学部と切り離し、厚労省が必要な人材、場所、制度を作っていくべきなのだ。
日本の場合、医師が何科の看板を掲げるかは自由である。医師免許を取得した者は人間の身体について全部理解しているスーパー・ゼネラリストであり、内科の診断もできれば外科の手術もできるという前提になっているからだ。
しかし、実際には大学在学中に専門分野を決めるので、血を見たり、手先の器用さが要求されたり、医療過誤で訴えられる可能性が高かったり、診療効率(患者の回転)が悪かったりする外科、産婦人科、形成外科、小児科などは人気がなく、聴診器を当てて薬を出すだけで済む内科は人気が高いのである。
この問題は医学部を「学問の府」とみなして、文科省が管轄している限り解決できないが、厚労省が管轄して患者の立場から考えればメスを入れることができると思う。つまり、医療行政の一環として診療科ごとに医師を養成し、医療現場の必要に応じて不人気な科の定員を増やし、人気がある科の定員を減らせばよいのである。
もしくは、外科医の給料を内科医の10倍にすればよい。医師の地域偏在についても、医師が不足している僻地などに赴任する場合は給料を格段に高くすればよいのである。
あるいは、不足している地域に15年以上赴任する場合は返済不要な奨学金を出す、などの策が自在に設計できる。 そのように地域と専門分野別に給料や授業料などでインセンティブを与えれば、医師の最適配分が可能になるはずだ。
※週刊ポスト2012年2月10日号