長引く不景気の影響で、ここ数年はテレビドラマの制作現場でも、安定した視聴率がとれる「手堅さ」が求められてきた。視聴率の取れる人気俳優を並べて、ドラマの内容よりも看板を重視する風潮が続いたと、コラムニストのペリー荻野さんは語る。
「1970~1980年代はテレビも上昇気流に乗って、自由にドラマをつくれました。先日、亡くなった市川森一さん(享年70)に象徴されるように、シリアスからラブコメディーまで、力のある脚本家がドラマに豊富なバリエーションを与えていたんです。しかしバブルが崩壊してからは、ベストセラー小説や漫画のドラマ化など、原作ものが増加。オリジナル脚本のドラマを見つけるほうが難しかった」
ドラマ製作費は「潤沢な予算があった時代の半分以下になっている」とあるテレビ関係者はいう。ただでさえ厳しい状況なのに、人気俳優ありきの制作をしていては高騰するギャラに大半を費やさなければならない。自ずと脚本家が望む物語の設定や展開より、俳優の事情が優先されることになる。
「脚本家、すなわち物語そのものが軽視されるようになった面は否めません。そうした制作者側の姿勢によって、視聴者が“見たいドラマがない”とテレビ離れをしていった」(前出・テレビ関係者)
そんななか、昨年起こった東日本大震災。視聴者の関心は「家族」に移った。
震災直後の4月から放送された『マルモのおきて』(フジテレビ系)は、阿部サダヲ(41)演じる30代の独身男が子育てに奮闘する姿が視聴者の共感を呼び、高視聴率をマーク。「先が見える原作もの」よりも「先が見えないオリジナル」のドラマが支持されるきっかけにもなった。
テレビ業界に詳しいコラムニスト・山田美保子さんがいう。
「テレビは生ものですから、やはり社会の出来事を反映します。震災があって家族へ回帰し、ホームドラマが求められるようになりました。まず『マルモのおきて』がブームになり、次に『ミタ』。テレビ各局のゴールデンタイムの同時間帯の視聴率を全部足しても60%に満たない時代ですが、F3M3層と呼ばれる50代以上の視聴者も取り込んだ結果、だんだん大人たちがテレビドラマに帰ってきつつあるのだと思います」
※女性セブン2012年2月16日号