いまや中国で「地下経済」(ここで言う「地下経済」は狭い意味での違法経済に加え、違法ではないが政府未公認の経済も含む)が代替不可能な存在になっている。その規模は「表」の30~40%に達するとも見られている。その民営経済の聖地、温州市で、多くの市民から資金を募って運用していた地下金融のトップが資金を持ったまま夜逃げするといった事態が相次いだ。
そして破綻の連鎖は拡大し、資金調達に支障をきたした中小企業が数多く倒産する大混乱が起きた。中国の地下経済の実態について、ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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実は、今回の地下経済と地下金融の崩壊の源流を辿ると、そこには中央政府による「地下叩き」とも言える地下経済と地下金融の「正規化」という目論見がある。単にバブル崩壊や成長鈍化が原因なのではない。
例えば、以前からレアアースの違法採掘や違法輸出が後を絶たないことに中央政府は頭を悩ましていた。“モグリ”の炭鉱から闇のルートで流出する量が多すぎて、正規市場における価格に大きな影響を与え、政府が価格をコントロールできなくなっていたのである。そこで、2009年からレアアースの採掘から輸出までを正規ルートに一本化するための取り締まりを開始した。
それによってレアアース関連の地下市場が打撃を受けたのである(ちなみに、日本では、2010年9月に起こった「尖閣諸島中国漁船衝突事件」の後、中国が日本に対する報復措置としてレアアースの輸出規制を行なった、と報道されているが、それは間違いだ。輸出規制はそれ以前から始まっていた)。
中央政府は地下金融に対しても、同様の「正規化」を図っている。2011年11月、新華社通信の報道により、中央銀行たる中国人民銀行が地下金融に正規の銀行免許を与える方針を示したことが明らかになったのが、それである。
これは、大きな存在となった地下金融を公認せざるを得なくなったというより、地下金融を政府のコントロール下に置き、金融秩序を取り戻そうという狙いである。つまり、「裏」を「表」にしようというわけだ。一見するとこれは、戦後の日本で各地の無尽が新しくできた法律によって相互銀行へと転換していった流れと同じように思える。
しかし、日本と違い、合法化によって簡単に「表」に吸収されるほど中国の地下金融の規模は小さくない。しかも、中小企業の活動や人々の生活に密接な地下金融を正規化しようとすると、資金が流れにくくなる。
法律に縛られ、従来のように柔軟とも安易とも言える融資が出来なくなってしまうからだ。そして、従来地下金融に頼っていた企業や人々が資金ショートし、大きな社会混乱を引き起こす。皮肉なことに、統制しようという政策が逆に混乱を生み出す可能性があるのだ。
一般に途上国から先進国へと発展するプロセスのひとつとして地下経済、地下金融の合法化が行なわれるが、「表」と「裏」が分離不可能なほど相互依存している中国の場合、そうはいかない。むしろ地下経済と地下金融の影響の大きさを政府は思い知ることになるだろう。
※SAPIO2012年2月1・8日号