有森裕子、高橋尚子、野口みずき……世界トップ選手を輩出してきた日本女子マラソン界にどうして地盤沈下が起こってしまったか。
日本陸連名誉副会長で、かつて強化委員長を務めていたこともある帖佐寛章氏は、その一因として「高校陸上界と大学との間にある大きな溝」を挙げた。
「有森や高橋、野口ら近年レースで活躍した選手に共通するのは、高校時代にパッとしなかったこと。マラソン挑戦に関しても2度目で頭角を現わした。つまり高校時代に、無理な練習で体を酷使されていなかった。
私が強化委員長のとき、高校指導者と大学指導者を一堂に集めて意見交換会を催したことがある。その際、大学の指導者からは、『有名校から選手をとると、故障だらけ。これは何とかならないか』という声が上がる。すると高校側からは『故障するような選手を見分けられない方がいけない』とやり返した。
高校と大学の間で選手育成におけるビジョンを共有できていない。指導者の目が世界にむいていないということをいわれても否めないでしょう」
高校陸上関係者によると、駅伝強豪校といわれる学校の多くは、合宿体制を敷いているという。厳しい練習のほか、一日に何度も計量が行なわれ、そこで体重が500㌘でも増えると、ランニングが課せられる。
「駅伝至上主義の高校指導者の間には、チーム全体で体重を落とすと、それだけタイムが上がるという通説がまかり通っています。でも、成長期の厳しいトレーニングと過酷な食事制限で、その先の競技生活を棒に振っている選手も多い。高橋尚子は骨密度がかなり高かった。この数値が高いというのは、成長期にきちんとした栄養をとっていた証左になる」(陸上専門誌記者)
つまり出身が高校駅伝の強豪校だったなら、高橋尚子は生まれていなかったかもしれない。
※週刊ポスト2012年2月17日号