東日本大震災以来、天皇、皇后両陛下は幾度も被災地をお見舞された。今あらためてお見舞いの際に両陛下と被災者の間に生まれた心温まる秘話をしよう。
昨年5月6日、両陛下は岩手県を訪れた。釜石陸上競技場から被災者が待つ釜石市立中学校にマイクロバスで向かわれたのだが、その時、驚くことがあった、と同行した釜石市長・野田武則氏(58歳)が話す。
「バスの中で天皇陛下は右側の、皇后陛下は左側の席にお座りになりました。ところが、近隣の住民たちが沿道の左側に立ち、手を振っていました。すると天皇陛下は、ご自分のお姿が住民によく見えるようにと立ち上がり、背凭れなどにつかまりながら手を振り始められました。
不安定なので、失礼ながら私が『お座りになった方がよろしいのではないでしょうか』と申し上げると、『皆が出迎えてくれているので手を振らなければなりません。だから、座らなくていいのですよ』とおっしゃいました。
結局、釜石中学校に着くまでの20~30分間、揺れるバスの中でずっとお立ちになったままでした。これが自分の責務なのだ、という強い思いを抱いていらっしゃるようにお見受けしました」
※SAPIO2012年2月22日号