日本の学校の性教育は不十分との批判があるが、実は1990年代は、様々な教材が開発されるなど、先進的な取り組みが行われていた。1980年代後半にエイズ患者が増加したことによって、子供たちに正しい性の知識を教えることが必須となったからだ。しかしある時から流れは変わった。
2003年に東京都にある七生養護学校で行なわれていた性教育を都議会議員が、「世間の常識とかけ離れた教育」と批判。七生養護学校の教師が、東京都、東京都教育委員会などを相手に「教育に対する不当な支配」だとして裁判を起こす事態に発展した。
この七生養護学校では、1997年に学校内で男女が性的関係を持ったことを問題視し、性教育に力を入れてきた。人形を使って、妊娠や性交を教えたり、性器の名称を入れた「からだうた」を歌うなどとしていた教育内容が「不適切」な教育と批判されたのである。
この2003年頃から“いきすぎた性教育”へのバッシングが始まり、さらに、2005年には自民党内に安倍晋三官房長官を座長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足し、批判を強めてきた。こういった一連の動きから、教師の間に「踏み込みすぎると処分される」という警戒心が生まれ、性教育はいまや“触らぬ神に祟りなし”というムードになりつつある。こういった揺り戻しで、日本の性教育はブーム以前の水準に戻っているのが現状なのである。
そうした中でも、批判を恐れずに性教育を積極的に実施する先生もいる。
兵庫県のある小学校では、1年から6年まで、学級活動や総合科、保健体育や、理科の時間を使って、性器の名称からお腹の中での胎児の育つ過程、受精、エイズの予防まで教えている。
「精子と卵子はどうやってくっつくの?」
生徒からこういった質問は毎回のように出てくるという。それに対して先生は、
「ペニスをヴァギナにいれて、その中でくっつくの」
と、性器の正しい名称を使って、話をするのだ。
「ここで大事なのは、お父さんとお母さんはあなたが欲しいと思って作ったんだよ、ということを伝えて、自尊心をもたせることだと思います」
と話すのは、同校の養護教諭。性教育を取り巻く環境が変わっても、常に充実させた性教育を行なっており、これからも続けていくという。
しかし実際に、このように積極的に取り組んでいる学校は近年では、ほんの一部だ。学校ごとに、授業時間は異なるが、中学校での平均授業時間は年間3時間前後。細かく見てみると、0時間の学校がある一方で、30時間以上授業を行なう学校もある。
振り幅があまりにも大きすぎる日本の性教育。子供たちのためになる教育の方向性はどちらなのだろうか。
※週刊ポスト2012年2月24日号