核開発を進めるイランに対してアメリカが追加の制裁を提案すると、今度はイランが原油の通り道であるホルムズ海峡の封鎖を持ち出すなど対立が激化している。イランはなぜ、核開発にこだわるのか、落合信彦氏が分析する。
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イランはなぜ強硬な対応を続けるのか? 大統領のアフマディネジャドは「イスラエルを地図の上から抹殺する」と公言し、最高指導者であるハメネイも、「アメリカの制裁の圧力には屈しない」という声明を出している。彼らは反イスラエル、反アメリカの姿勢を隠さないが、もう一つ、根本的な部分で忘れてはならないポイントがある。
核を手に入れることは、イランにとって1400年にわたる戦いの勝利に繋がるのである。
632年にイスラム教の開祖であるモハメッドが没した後、その正統な後継者が誰であるかを巡ってイスラム教内で対立が起きた。この時生まれたのが「スンニ派」と「シーア派」であり、この対立は今でも引きずられたままだ。
イランはシーア派の国家だが、全世界のイスラム教徒の約8割はスンニ派だ。シーア派は少数派の地位に甘んじたまま1400年を過ごしてきた。
「核兵器を持つことによって、シーア派国家がイスラム世界の覇者となる」というのは、イランの偽らざる真の野望なのである。イスラム教内の覇権を巡る闘いの延長なのだ。イランが核開発を今の時点で止める可能性はほとんどゼロに近い。また、イランが核開発に成功すればサウジアラビアやエジプトといったスンニ派国家も対抗的措置として核開発に踏み切るだろう。
一方、そうしたイスラム国家に囲まれたイスラエルとしては、なんとしてもイランから始まる「核開発の連鎖」を防がなくてはならない。
イスラエルは過去に、シリアやイラクの核施設を空爆し成功を収めた。それらのケースと同様に、モサドが既にイランの核施設の位置を把握し、いつでも空爆ができる状態になっている。
ただし、イラン空爆には一つ追加条件が必要となる。それは、「アメリカのサポート」だ。シリアやイラクに比べて、イスラエルからイランまでの距離は倍以上ある。つまり、米軍による空中給油なくして航空機はオペレーションを完遂できない。また、イランが発射するであろう数々の対空ミサイル、おとりミサイル、レーダー施設などを事前に破壊する必要がある。これにはアラビア海に展開する空母からのクルーズ・ミサイル攻撃が欠かせない。
※SAPIO2012年2月22日号