とにかくうまいものが食べたい! というわけで、グルメ雑誌『アリガット』誌の元編集長・小川フミオ氏がセレクトした珠玉の一品として、『かきがら町 都寿司』(東京・日本橋蛎殻町)の「煮もの丼」を紹介します。
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ちらし寿司には多様な種類があるが、『かきがら町 都寿司』の「煮もの丼」には、また違った趣がある。丼に盛った寿司飯に海苔をのせ、その上に、エビ、ホタテ、アナゴ、タコ、それにカンピョウ──火を通し、甘辛の煮つめで味つけした素材を並べる。
東京証券取引所のある兜町の近所、日本橋蛎殻町といえば、ビジネスマンのための食堂が多い。『都寿司』のランチに、ちらし寿司、まぐろ丼など、日本伝統の“ファストフード”が並ぶのも、そんな場所柄ゆえとか。
「おいしいものを食べたい。でも早く済ませたい。そんな忙しいお客さんのために丼を出すのが伝統なんです」と、主人の山縣正さんは話す。
「地方で偶然、“よくおたくのお店に行ってますよ”と声をかけられたこともあります」。聞けば、東京穀物商品取引所が近くあった当時、ここに通っていた米の卸問屋の人たちだった。
煮もの丼は、アナゴの本数が限られているため、約20食限定。開店と同時に店に来て注文するファンもいるとか。働き者のニッポン人を支えてきてくれた店だ。
■『かきがら町 都寿司』の「煮もの丼」 1000円
【住所】東京都中央区日本橋蛎殻町1-6-5
【営業時間】11~14時、16時半~21時。土は11~14時のみ
【定休日】日祝
【カード】可
日本橋はかつて魚河岸があるなど、水運を利用した問屋街だった。4代目の山縣正さんが店主を務める『かきがら町 都寿司』も古くから地元の人に愛されてきた。昼は「まぐろ丼(1000円)」や、魚とご飯を分けた「花二重(1200円)」といったメニューが人気。夜は、にぎりが中心となる。
撮影■河野公俊
※週刊ポスト2012年2月24日号