オランダは、公娼制度を設けたり、一部地域で麻薬合法化を実施するなど、社会制度のあり方において、先進的な取り組みを続けている国だ。性教育についても他の国とは大きく異なる方法が試され、実践されている。性教育のあり方を考えるひとつの軸として、オランダの事例をレポートしよう。
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その日、小学校の最上級生に当たる11歳から12歳の生徒たちは、学校を離れ、「ネイチャーハウス」という施設に出かけた。これまで学んできた性教育の“技術的な面”を完結するための、特別授業を受けるためだ。
あるグループは小さな箱の左右に空いた穴の中に両手を入れている。箱の中心にはペニスを模した肌色の突起物があり、中が見えない状態でコンドームを上手につける練習をしている。これは暗闇の中でもコンドームを的確につけられるようにするための練習だという。
また別のグループは、男女の人形を使ってバーチャルセックスの実習をしている。男性の人形にはペニスが、女性の人形には膣がついていて、しっかりと挿入できるようになっている。
これまでの教育の成果なのだろう、子供たちは恥ずかしがったり、ふざけたりすることなく、真剣な表情で課題に取り組んでいた──。
これは本誌記者が訪れた、オランダ中部ヘルダーラント州のアペルドールンという人口約16万人の都市にある、デ・ザーイア公立小学校で実際に行なわれている性教育の一部である。
オランダの小学校には4歳から12歳までの子供が通う。現地在住の教育評論家・リヒテルズ直子氏によれば、性教育は最下級生の4歳頃から始められる場合が多いという。
「最初は家族の関係とか、自分がどんな風に生まれてきたのかから始まります。そして、例えばぬいぐるみを抱きしめてみるとどんな感覚なのか、人とハグをしてみるとどんな感覚なのかを授業で話し合い、性的欲求が高まった時のホルモンの働きなどについても合わせて教えます。
オランダの性教育には決められた指導書や教科書などは特になく、学校や先生が自由に選んでいいことになっていますが、最近は異文化間での男女交際についてのドキュメンタリーなどをDVDなどで見せることが多いようですね」(リヒテルズ氏)
具体的なセックスの方法や避妊、自慰行為について学ぶほか、デートの仕方や生涯のパートナーの選び方、そして離婚まで、小学生のうちにみっちり勉強。さらには、自分が異性愛者なのか同性愛者なのかを自覚することや、ED(勃起不全)や包茎、月経不順などの性にまつわる問題、望まないセックスを避けるためのコミュニケーションの方法、性暴力の被害者になってしまった場合への備えなども学ぶという。
※週刊ポスト2012年2月24日号