フィンランドでは、性教育は、その多くが「生物」の時間に行なわれる。生物学的な受精や妊娠の仕組みだけでなく、さまざまな避妊具の使い方からマスターベーションの説明までもが生物科目に含まれるのだ。
「生物で生殖細胞や、遺伝を学ぶ延長線上で、人間の受精や性交、妊娠を学ぶことになります。妊娠の過程も生物の教科書に詳細な図解があるなど、性を、より生理学的、医学的な知識に裏付けられた性を学ぶことを目的としています」
と、話すのは女子栄養大学教授でフィンランドの教育事情に詳しい橋本紀子氏。
誕生から死まで、人生をトータルに捉えて、パートナーとの出会いや性交、出産、ときには別れも含めて教えるというのがフィンランドの性教育の特徴である。
2004年に新しい学習指導要領が制定され、「生物」科目に加えて、健康や人間関係、そして性教育も学ぶ「健康教育」という科目が、総合制学校7~9学年(13~15歳)で教科として独立。教材の中には体の仕組みや機能の他に、マスターベーションなどの性行動についても説明がある。普通高校で必修科目として位置付けられ、大学入試の科目にもなっている。
高校生になると、「健康教育」の教科書で、多様なセクシュアリティとして、同性愛者やトランスセクシャル(性同一性障害者)が取り上げられている。また、「その他の性表現」として、露出狂、のぞき魔、男装・女装者、サドとマゾなどについても解説されており、多様な人間への理解を促すように工夫されている。
家族を含め、性教育は地域ぐるみで行なわれている。市営病院の一角にある、性の問題について相談できるセンターには、中学生が多く訪れ、女の子同士で生理不順についての悩みや、カップルで避妊についての質問をする。中学生の女の子が「ピルを飲んでみたい」といえば、副作用の問題などがなければ、3か月間のお試しセットを渡すこともあるという。
※週刊ポスト2012年2月24日号