核開発を進めるイランに対してアメリカが追加の制裁を提案するなど対立が激化している。その中で、イランの核兵器の脅威にさらされるイスラエルも空爆を準備していると言われている。しかしそれにはアメリカの支援が不可欠だ。果たしてイスラエルによる空爆はあり得るのか、落合信彦氏が解説する。
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私が知る限り、イスラエルが米軍にイラン空爆支援を要請したことは、前大統領であるブッシュの時代に2度あった。だが、ワシントンでもきってのタカ派である当時副大統領のディック・チェイニーは、首を縦に振らなかった。当時のアメリカにはイラクやアフガンの戦線があり、拡大する余裕がなかったのである。現在のアメリカにも厭戦ムードがあることは否定できないが、2012年は少し事情が違う。
それが、11月の大統領選挙である。仮に投票日前にアメリカが武力行使に踏み切り、イランを屈服させることができたら、オバマ政権の支持率は跳ね上がる。そうなれば、強硬な対外政策というお株を奪われた共和党候補に、勝ち目はない。湾岸戦争に勝利した直後、当時のブッシュ・シニア政権の支持率が90%に達したことを、オバマが覚えていないわけがない。
歴史を顧みても、アメリカでは、大統領選挙の投開票日直前の10月に、現役大統領が大胆な人気回復策を打つことが少なくない。「オクトーバー・サプライズ」というパフォーマンスである。対イラン開戦という「オクトーバー・サプライズ」は、オバマにとってこの上ない誘惑となる。しかし、オクトーバーまで待つ必要はない。イランの核兵器開発が急激なピッチで進んでいるからだ。
巧みなのはそうした事情を利用しようとするイスラエルだ。彼らはいつまで経っても空爆にゴー・サインを出さないアメリカに対して業を煮やしている。だからこそ、イラン人核科学者の殺害を続け、アメリカ大統領選挙のタイミングに向けて米・イランの対立を煽ろうとしているのではないか。この煽りを、アメリカ軍部が焚きつけている可能性が大いに高い。
つい最近、アメリカ軍部の幹部が、イスラエルを訪問して、ネタニヤフ首相、国防相のバラク、イスラエル軍部、諜報機関・モサドのトップと話し合いを行なったが、内容は大体推測できる。イラン攻撃の場合の条件、タイミング、出口戦略。そして、攻撃はあくまでイランに先制させる。モサドは既に、何十人かのエージェントをイランに送り込んでいると言われる。彼らの役割はこれまで以上にイランの重要施設を破壊すること。そして科学者たちや重要人物の暗殺。
これによってイランがキレればオペレーションは成功する。それまでは、表向きIAEA8国際原子力機関)とイランのコンタクトを続けさせる。イランもIAEAも話し合いでの解決を望むフリをするが、アメリカやイスラエル、特に後者は、もはやそれは無理であると確信している。
※SAPIO2012年2月22日号