年間16億8000万食。ピーク時、1972年の37億食(1971年にカップ麺が登場)から減少しているとはいえ、「国民食」としての即席袋麺の地位は揺るぎもない。
ところが、この業界。『チキンラーメン』(日清食品)、『サッポロ一番』(サンヨー食品)というメガブランドが半世紀前後も君臨し、ほかのブランドは太刀打ちできない状況が長く続いていた。
その状況に風穴をあけたのが『マルちゃん』シリーズでおなじみの東洋水産。同社はカップ麺でこそ『赤いきつね』『緑のたぬき』などのメガブランドを擁するが、袋麺では一部地域を除けば、シェア争いで後塵を拝してきた。同社商品開発部・的場勉課長が語る。
「カップ麺も含めた即席麺市場は成長を続けているのに、麺とスープしかない袋麺は新技術や新ジャンルなどを投入しづらい。結果として、価格競争に陥り、新製品を開発しても利益が出にくかったのです」
だが、それはメーカー側の勝手な思い込みだったのかもしれない。目標をすえて動かなければ、何も変わらない。そう考えた会社上層部は即席麺事業部に極秘指令を出していた。
「新しい袋麺の開発が厳しいことはわかる。しかし、ただ見ているだけでは当社の位置や市場に変化は起こらない。袋麺市場のシェア、そして東洋水産のシェアを上げ、業界でナンバーワンを取ろう」
完成された製品は、「これこそが正しい麺」「理想のラーメンの完成形」という自負を込めて『正麺』と名付けられた。
2011年11月。全国一斉発売された『マルちゃん正麺』は、発売直後から一気に市場での話題を独占。『チキンラーメン』『サッポロ一番』という二大巨頭に肉薄する驚異的な売り上げを記録しているのだ。
調理方法は沸騰したお湯で2~4分煮るだけ。従来の袋麺と変わりはない。ところが麺を麺で触れるとしっかりとしたコシがある。確かに乾麺だが、出来上がりはまるでラーメン店で食べるような生麺の味わい。的場氏は語る。
「袋麺市場でもうヒット商品は出せないと思っていました。でも今は『志を立てるのに遅すぎることはない』と実感しています」
※週刊ポスト2012年3月2日号