春にも原発の再稼働を目指していると言われる野田佳彦首相。なし崩し的に原発は再稼働となるのか。再稼働をするにあたって、クリアすべき問題点は何か。菅政権において内閣官房参与として原発事故対策に取り組んだ田坂広志氏が以下、再稼働の「絶対的条件」を指摘する。
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第一は、事故原因の徹底究明です。ところが、現時点では、三つの事故調査委員会(国会事故調、政府事故調、民間事故調)のいずれも最終報告を出していません。すなわち、何が福島事故の真の原因であったのか、未だ判明していないのです。それにもかかわらず、「重大事故を起こさない対策は打った」として再稼働への手続きが進められていますが、これでは国民の信頼と納得は得られません。
第二は、事故の責任の所在を明らかにし、責任を取ることです。その際、東京電力はもとより、原発を監督してきた行政機構や政府の委員会も、責任の所在を明らかにし、しかるべき厳正な処分を受けるべきでしょう。その当然のことを抜きに、国民は政府の原子力行政に対して、信頼も納得もしないでしょう。
例えば、事故当時の経産省事務次官、資源エネルギー庁長官、原子力安全・保安院長の三人を「更迭」と称して「勧奨退職」させましたが、こうしたことは国民からの不信を増長してしまいます。
第三は、原因究明に基づいた原子力行政の徹底的な改革です。そもそも、今回の原発事故の背景にあるのは、単なる「技術的要因」だけではありません。そこには、明確に「人的・組織的・制度的・文化的要因」があります。
従って、再稼働の「安全性」を確保するためには、ただ「津波対策の強化」「電源の多重化」といった技術的な対策だけでは不十分であり、むしろ、原子力行政と原子力産業の抜本的な改革を行なうことこそが、最も重要な安全対策です。
すなわち、再稼働に向けては、以上述べた「三つの壁」があるのです。ところが、原発事故から一年近くを経て、未だ事故原因の徹底解明が行なわれていない、誰も責任を取っていない、何の改革も行なわれていない、というのが現実です。これで再稼働について国民の納得が得られるでしょうか。言葉を換えれば、事故を起こした時と同じ法律の下で、同じ行政組織が、同じ手順で再稼働に進むことを、国民は納得するのでしょうか。
たしかに、再稼働に向けて、「ストレステスト」を導入したことは一つの改善ですが、そもそも、再稼働した原発の寿命をどう考えるかも、明確には定まっていないのです。
例えば、細野豪志原発事故担当相は1月6日、原子炉等規制法などを改正し、原発の運転期間を原則40年に制限する方針を発表しました。これは大臣としての明確な方針表明であったと思いますが、細野氏が外遊中の同月17日、内閣官房の原子力安全規制組織等改革準備室が、新たに「20年を超えない期間、1回に限り延長を可能とする」との方針を表明したため、多くの国民は戸惑っています。
また、原発を推進する経産省の中に、規制を担う原子力安全・保安院があることは不適切だとして、これらの分離が1月31日に閣議決定され、国会に提出されました。しかし、新設される原子力規制庁で働く人材の大半が経産省からの出向では意味がありません。そこで、片道切符で経産省へは戻らない「ノーリターン・ルール」の適用を細野氏は方針表明しましたが、当面、このルールが適用されるのは、審議官以上の7名だけと報道されています。
このように、本当に国民の立場に立って安全規制に取り組む組織を確立し、人材を育成するには、まだ相当の時間がかかります。
※SAPIO2012年3月14日号