福島原発の事故から1年。各地の放射線量について高い関心が寄せられてきた。中にはガイガーカウンターを購入して自ら測定する人も出てきた。
はたして、空間線量はこの1年でどうなったのか。
放射性物質の放出は昨年3月に起きた。原子炉の問題が解決せず、廃炉に30年かかるともいわれていることから、今でも放射性物質が漏れ続けていると誤解している国民は多い。事実は、放出がほぼ止まった昨年3月中旬から空間線量はすべての地域で急激に下がった。
福島県でも、例えば飯舘村では3月15日に44.7マイクロシーベルト/時を記録したが、4月初旬には10マイクロを下回り、4月半ばには5~6まで下がった。ホットスポットが見つかっている福島市でも、やはり3月15日に最高24.24に達したが、4月に入ると2~3マイクロまで急低下した。
直近の値は、警戒区域外の高いレベルで0.38マイクロ(福島県南相馬市)ほど。1年間の被曝量に換算すると、約3.3ミリシーベルトに相当する(※マイクロ/時をミリ/年に換算するには、8.776を掛ければよい)。もちろん今後も数値は下がっていくし、ここまで低下すれば、危なくて住めないというレベルではない(もちろん、局所的なホットスポットは別問題だ)。
これを自然放射線と比較すれば、危ないかどうか判断しやすい。日本の平均値は1.5ミリシーベルト/年であり、世界平均は2.4、中国やブラジルには自然放射線が年間10ミリシーベルトを超える地域があり、多くの人が健康に暮らしている。
そこからも、国際放射線防護委員会(ICRP)の「年間被曝1ミリ以下」が十分に厳しい基準であることがわかる。
ちなみに、自治体などで計測・発表されている空間線量には自然放射線も含んでいる。世界平均の自然放射線に基準の1ミリを上乗せしたレベルまでが国際的に認められた安全な範囲だと考えるなら、計測値が年間3.4ミリ以下なら心配しなくてよいことになる。前述した現在の南相馬もその範囲に収まる。
むしろ心配は、過去1年の被曝量がどれくらいだったかである。福島県の聞き取り調査からの推計では、原発作業員以外でも20ミリ以上被曝した住民が2人いた。極端な例を除外しても、住む地域によって被曝量は大きく違うから、自分が1年でどれくらい被曝したか知っておく意味はある。
首都大学東京大学院の福士政広・放射線科学域長の協力の下、各地の1年間の累積被曝量を推計し、以下に掲載する(変化する線量を積算し、その土地で1日8時間屋外、16時間屋内で生活したと仮定)。
●福島県福島市:年間被曝量推計7.28ミリシーベルト
●福島県南相馬市:年間被曝量推計2.9ミリシーベルト
●福島県いわき市:年間被曝量推計1.381ミリシーベルト
●群馬県前橋市:年間被曝量推計0.503ミリシーベルト
●栃木県宇都宮市:年間被曝量推計0.552ミリシーベルト
●茨城県水戸市:年間被曝量推計0.593ミリシーベルト
●千葉県柏市:年間被曝量推計1.36ミリシーベルト
●東京都新宿区:年間被曝量推計0.388ミリシーベルト
※空間線量は、文科省「都道府県別環境放射能水準調査結果」に基づく。福島県内は県内7方部のモニタリング結果、千葉県柏市は東京大学柏キャンパスのデータを利用。
※年間被曝線量の推計(地上1m地点)は、各地の空間線量集計(3月11日までは2月17日の数値、柏市のみ12月25日の数値を代用)。1日8時間を屋外、16時間を屋外にいたと仮定し、屋内での被曝量は屋外の40%として算出している。
※地表におけるセシウム134、137の沈着量は2011年12月6日の文科省報告書より。
推計できた場所で最も高かったのは福島市で7.28ミリシーベルト。自然放射線なら世界でも最高レベルの場所に匹敵する。この1年間限定の数値とはいえ、今後も住民の健康調査を継続し、影響の有無を見守るケアは必要だろう。
ただし、この数値でも、およそCTスキャン1回分(6.9ミリシーベルト)と同じ。医療放射線だから安全ということはなく、一度に狭い部位に浴びるから、むしろリスクは高い。CTも避けられるなら避けたほうがよいが、福島市民はそれと同程度の被曝をした。
高いと思われた南相馬の中心部は2.9ミリと心配ないレベル。その他の地域はさらに低く、東京は0.388。自然放射線と比較しても、ICRP基準に照らしても、また、内部被曝の影響を過大に加味しても全く問題ない数値だった。
※週刊ポスト2012年3月9日号