東京電力は電気料金値上げに踏み切る構えだが、その前にやるべきことがあるはずだ。論より証拠。東電がどこに自らのオフィスを構え、どんな資産を保有しているのか、お見せしよう。この調査データは「国有化」議論にも一石を投じるはずだ。ジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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東京・足立区。JR北千住駅から徒歩15分の場所に「千住資材センター」がある。隅田川と荒川に挟まれた中州に位置し、資材置き場と足立営業センターとなっているが、敷地内に社宅や総合グラウンドもある。その面積、なんと約6万平方メートル。東京ドームより2まわりほど広い。
専門家の資産査定では、時価約121億円と見られているが、現地を訪れると、社宅用の建物の窓にはベニヤ板が張られて人の住む気配はなく、グラウンドは芝が剝げている。大部分は事実上の遊休地だ。
本誌取材班が独自調査した東京周辺の東電グループが保有する資産データがある。それによれば、19物件で、専門家による資産査定の総額は1400億円にのぼる。
最高額をつけたのは、東電が2010年に取得した港区立三田中学校の仮校舎跡地(1万3000平方メートル)の約283億円。JR田町駅から徒歩10分の場所にあり、付近には地上43階建てのオフィスビルが立地するなど、再開発にはもってこいの場所である。
他にも千代田区内幸町にある新幸橋ビルディング(区分所有)は約246億円。
ホテルもある。東電は、東京の日本橋と田町に2つのビジネスホテルを持ち、子会社の東電不動産が経営している。資産価値は2棟で18億4000万円。
川崎市にある「FISH・ON! 王禅寺」のような変わり種もある。これは東電不動産が経営するルアー釣りやフライ・フィッシングを楽しめる釣り場だ。
「都心から車ですぐ行ける場所にあり、釣り好きの間では有名なスポットです。道具もレンタルできるし、ニジマスなどを釣れば、施設内で調理して食べることもできます」(常連客の一人)
約5万平方メートルの敷地に4つの池が設置され、ナイター施設が完備。資産査定では5000万円という金額となったが、なぜ、釣り堀経営をしているのか、という疑問に東電は、「売り上げ拡大を目指し、新規事業として開始した。王禅寺は、電気事業上の目的で用地を取得しその役割を終えたことから、有効活用策を検討した結果、管理釣り場の運営に至った。今後売却を予定している」(総務部広報)と回答した。
政府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会(以下、第三者委員会)」は、原則3年以内に時価ベースで2472億円の不動産(具体的な物件は非公表)の売却を実施すべきという最終報告をまとめた。それをもとに東電は「特別事業計画」を作成し、第三者委員会の報告通りに売却する方針を決めたものの、いざ実施するとなると、今年度中に売却できる物件は152億円分とトーンダウン。上記表の物件は未だに東電とそのグループ会社が保有したままになっている。
こうした現状について東京電力は、「売却の前倒しを進めており、2011年度第3四半期決算時点で既に153億円の不動産を売却した。売却する個別不動産の内訳・処分時期については、回答を差し控えるが、変電所付の不動産は、第三者委員会報告にある通り売却困難と判断しており、賃貸等による有効活用を図っていく」(同前)とした。
元経産官僚で慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸氏は政府・東電の姿勢をこう批判する。
「そもそも廃炉費用や賠償費用などを考えれば、東電は事実上の破綻状態にある。だったら破綻させた上で、抜本的な改革を行なうべき。それなのに第三者委員会は東電を救済、再生する前提で報告をまとめた。しかも、不動産売却が『原則3年以内』というのは『例外もある』ということ。また、変電所を移して物件を売ることだって可能なのに、委員会では正面から検討していない。そんな中で『値上げは権利』と言っても、国民の納得を得られるはずがない」
東電がすべきはまず信頼の回復である。
※SAPIO2012年3月14日号