第84回アカデミー賞では、ハリウッドの黄金期をモノクロとサイレントで描いた『アーティスト』が作品、監督、主演男優などの5部門を受賞した。毎年、“最有力候補”といわれながらも受賞を逃す役者がいると思えば、彗星のごとく現れて受賞する作品もある。そこにはどんな違いがあるのか?
混戦となった今年のアカデミー賞。なかでもいちばんの番狂わせは、主演男優賞のノミネートから、今年もまた、レオナルド・ディカプリオ(37才)が外れたことだろう。
監督は映画人たちから尊敬を集める巨匠クリント・イーストウッド(81才)。テーマは初代FBI長官フーバーの伝記というアカデミー賞狙いド真ん中の作品である『J・エドガー』で、主人公フーバーを熱演したにもかかわらず、である。
「オスカーが欲しくない俳優なんていないよ。もし、そういう人がいたら、そいつは嘘つきだ。でも、自分ではどうにもならないことも事実。他人が決めることだからね」
賞レースが始まった昨年11月、期待の高かったアカデミー賞受賞に関してこう答えていたディカプリオ。彼のいうオスカーとは、アカデミー賞を受賞すると贈られる金メッキの人の像のこと。いまはどんな気持ちでいることだろう。
そんな彼は1993年、知的障がいを持つ少年を演じた『ギルバート・グレイプ』でアカデミー賞助演男優賞に弱冠19才でノミネートされたときは、今後、オスカーの常連になると誰もが予想した。だがその後主演した1997年のメガヒット作『タイタニック』は、作品賞、監督賞など主要部門を含む11部門で受賞したものの、主演男優賞にはノミネートすらされなかった。
映画評論家の渡辺祥子さんはこう語る。
「『タイタニック』は、仕掛けで見せる映画だった。もちろん、主人公のふたりの演技がよかったからあれだけの話題になったのですが、それでも俳優の演技は、映画の装置の一部になってしまったから、彼らはアカデミー賞に選ばれなかったのだと思います」
その後、巨匠マーティン・スコセッシ(69才)と組んだ『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年)では、10部門にノミネートされたが、主演部門のノミネートを共演のダニエル・デイ=ルイス(54才)にさらわれた。また、そのスコセッシが悲願のアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞した『ディパーテッド』(2006年)では、“ディカプリオの新時代到来”と高く評価されたにもかかわらず、『ギャング・オブ・ニューヨーク』と同じくノミネートにさえ至らなかった。
映画ジャーナリストの立田敦子さんはこう説明する。
「アカデミー賞の主演男優部門は競争率が特に高い。また、若くて人気が優先するスターより、ハリウッドに功績のある実力者にこそあげるべきという意識が強い。『タイタニック』の大ヒットで、アイドル的なスーパー・スターとなってしまったディカプリオは、その人気が裏目に出ているのかもしれません」
また、L.A.在住で、ゴールデン・グローブ賞を主催するハリウッド外国人映画記者協会会員である小西未来さんは、
「彼の演技に対する評価はハリウッドではあまり高くない。努力は誰もが認めるところですが、どうも力みすぎているというか、“ディカプリオが必死で熱演している”と見えてしまう。また今回の『J・エドガー』でいえば、老けメイクが安っぽかったこともマイナス要因ですね」という。
※女性セブン2012年3月15日号