第84回アカデミー賞では、ハリウッドの黄金期をモノクロとサイレントで描いた『アーティスト』が作品、監督、主演男優などの5部門を受賞したが、作品賞をとりやすいのはどのような作品だろうか。これまでの傾向をみてみよう。
かつては『アラビアのロレンス』(1962年)や『ゴッドファーザー』(1972年)、『シンドラーのリスト』(1993年)のようなハリウッドらしいスケール感のある大作が好みといわれたアカデミー賞。
だが、最近では『クラッシュ』(2005年)や『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)、『英国王のスピーチ』(2010年)といったハリウッドのメジャースタジオ以外の低・中予算の作品が選ばれるようになった。作品賞の枠を5から10に増やし、多彩な作品を選ぼうとする傾向もあるが、コメディーやアクションなど娯楽大作がほとんど無視されている状態は続いている。
「さほどヒットしなくても、アカデミー賞では、演技も脚本も練りに練られた、質の良い映画が好まれる傾向にありますね」と映画評論家の渡辺祥子さんは語る。
つまり、物語性、社会性、芸術性などが求められるということ。その理由は、アカデミー賞を選ぶ約6000人の会員たちにあった。
アカデミー賞は、映画芸術科学アカデミーに所属している会員たちの投票で決まる。社会的に地位も安定し、生活に不自由なく考え方も保守的と容易に想像できる。平均年齢は62才とやや高齢だ。
「彼らは皆、映画関係者(俳優がもっとも多い)なので、同じ業界のなかで選ぶわけですから、投票に際しても私情がはいり込むのは仕方のないことだと思います」と語るのはハリウッド外国人映画記者協会会員の小西未来さん。
スティーヴン・スピルバーグ監督(65才)は、1985年に初めての社会派作品『カラーパープル』を発表し、10部門で11ノミネートされたにもかかわらず、無冠に終わっている。
「当時、大ヒットメーカーとして成功していたスピルバーグに対して、業界人がひがんでいたからという見方があります」(小西さん)
その後、スピルバーグは『シンドラーのリスト』(1993年)で、念願のオスカーを受賞しているが、これは映画のテーマが業界ウケしたのだろうと小西さんは語る。
また、『ターミネーター』(1984年)や『アバター』(2009年)でも知られるジェームズ・キャメロン監督(57才)の人気も低い。
「メガヒットメーカーであることへの嫉妬と、『タイタニック』で監督賞を受賞したときのスピーチで“I am the king of the world!”(私は王様だ!)と発言したことがマイナスに捉えられたようです。現在公開中の『ドラゴン・タトゥーの女』のデヴィッド・フィンチャー監督(49才)の人気も低いのですが、誰もが認める鬼才ではあるものの、役者を酷使し、業界での集まりに非協力的である点がマイナスに作用しているのかもしれません」(小西さん)
この“業界ウケ”は作品賞だけでなく、男優・女優賞にも当てはまる。
「トム・ハンクスは実力者でありながら、人柄のよさで人気があり、アカデミー賞を2年連続で受賞しています。でも、ラッセル・クロウ(47才)は、誰もがその演技力を評価しながらも、その気性の荒さから、好き嫌いが分かれる存在となっています。『ビューティフル・マインド』(2001年)でアカデミー賞主演男優賞を逃したのは、その直前の英国アカデミー賞受賞後の無礼な態度が、アカデミー会員の心象を悪くしたからだといわれています」(小西さん)
このときのオスカーは、デンゼル・ワシントン(57才)に渡っている。つまり、アカデミー会員の嫉妬を買わず、また、品行のよい人がより賞を取りやすいということか。
「ハリウッドであろうと、ご近所や仕事仲間は大事にしないと取れないということでしょう(笑い)」(前出・渡辺さん)
※女性セブン2012年3月15日号