「穏やかだった夫が50才を過ぎたころから急に怒りっぽくなり、モノを投げたり、私や子供に当たり散らすようになって…。私が“更年期でつらい”などといおうものなら、“甘ったれるな!”と怒鳴られてしまうんです」(50才・主婦)
「仕事熱心で、休日は趣味のスポーツを楽しんだり、子供を遊びに連れていってくれていた夫が、近ごろは“体がだるい”と家でゴロゴロしてばかり。うっとうしい半面、大丈夫かしらと心配で…」(42才・パート)
最近、夫の様子が何かおかしいと感じているあなた。もしかしたら、彼は「更年期障害」かもしれない。実は更年期は女性特有のものではなく、男性にも存在する。
「夫から受けるストレスで、妻の更年期症状が悪化してしまうケースは多い。でも、夫がすぐにキレたり、心ない言葉を吐いたりするのも、実は更年期症状による場合があるんです。男性の更年期は定義が難しいですが、中高年のメンタルストレスに大きく関係しています」と話すのは、男性更年期外来を開いている大阪大学大学院准教授の石蔵文信さんだ。
そもそも「男性の更年期症状」とはどういうものなのか。神田医新クリニックの医師・横山博美さんが解説する。
「男性ホルモンであるテストステロンが減少することで、さまざまな身体的・精神的症状が引き起こされるもので、女性の更年期によく似ています。元気がない、うつっぽい、眠れない、イライラするといった精神症状や、冷えやほてり、動悸といった身体症状を伴います。また、男性特有の症状として、ED(勃起不全)や性欲低下、頻尿、残尿感もあります」
月曜日に会社を休みがちになる「ブルーマンデー」や、電話に出たがらない、会合をドタキャンするなど、それまでは考えられなかったような行動が目立つ場合は要注意だ。でも、生理も閉経もない男性に、なぜ更年期症状が表れるのだろうか?
「男性ホルモンは、20才ころをピークになだらかに減っていくので、通常は強い症状が出ることはありません。しかし、ストレスが原因で男性ホルモンがガクンと減ると、体がそれに対応できず、更年期症状を引き起こします」
と横山さん。症状が出やすい年齢も女性とほぼ重なり、平均年齢は49才前後。ただし男性の場合、年齢によって表れる症状が異なることも多いという。
「40才前後では不安、動悸、不眠が多く見られ、パニック障害にまでなってしまう人もいます。50才前後はうつ傾向が強くなる人が多く、60才を過ぎると、何をするのも面倒くさがり、怒りっぽくなったり、燃え尽きた感じになる人も見られます」(横山さん)
男性にも更年期があるという認識があまり広まっていないうえに、症状を口に出したがらない傾向があるため、男性の更年期は見逃されがちだ。前出・石蔵さんがいう。
「女性の場合、婦人科や更年期外来があって更年期の治療を受けやすい。一方、男性外来はほとんどなく、男性自身にも更年期という意識がない。だから頭痛があると脳外科に行ったり、動悸がひどいと循環器科に行ったりと、いろいろな科をぐるぐる回ったあげく、『異常ありません』といわれてしまう。その間に症状が悪化してしまうことも多いんです」
しかし、夫の更年期症状は、一緒に暮らす妻にとっても影響が大きい。夫のためにも、自分自身のためにも、妻が夫の更年期に気づいてあげることが大切なのだ。
※女性セブン2012年3月15日号