未曾有の原発事故から1年が経とうとしているが、東京電力の社員たちは、この1年、何を見て、何を感じてきたのか。そもそもあの悲劇は、なぜ起きたと考えているのか。福島第一原発で事故処理にあたった土木技術部門の50代社員に話を聞いた。
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原発土木の技術者として、最も悔しいのは、会社側が2008年に「10mの津波」を試算していたにもかかわらず、それを現場に伝えていなかったことですね。報道によれば、当時の副社長には伝えられていたとか。10mならば、遡上高を考慮し、12~13mの対策を要求される。対応していれば、これほどの被害にならずに済んだと思います。ご存じのように設計の想定は5.7mでしたから……。
3.11の当日は、フクイチ(福島第一原発)にいました。津波が来て、全電源を失った時から、メルトダウンという最悪の事態は想定できました。それからは文字通り不眠不休で作業を続けていたわけですが、今思えば、「情報の隠蔽」という体質が、この事態を招いてしまったと思います。
「10mの津波」の試算が出たのに現場に伝えられていなかったこともそうですし、「緊急時対策支援システム(ERSS)」の非常用バッテリーを、事故の際に未接続だったことを公表してなかったこともそうです。
「冷温停止」にしても、現場からすれば、「水をかけ続けなければならない冷温停止」などありえない。言葉の誤魔化しです。これは隠蔽体質の一つであり、それが不安を増幅しているとさえ感じます。
電力各社は、数百億円もの追加投資をして、原発の再稼働をしようとしていますが、果たしてそれほどの投資が必要なのか。東京電力社員としてこんなことは大きな声では言えませんが、現状、原発なしでも電力は足りているのですから、脱原発も視野に、国民投票などを行なって判断すべきだと思います。
※SAPIO2012年3月14日号