2月23日、テレビ朝日『報道ステーション』が、緊急時避難準備区域だった福島県南相馬市内の歩道の所々に黒い藻のようなものが発生し、そこだけが高い放射線量を記録していると報じた。これ以外にも、無責任に危険性を煽りまくるメディアが後をたたない。
その中でもお粗末だったのが『週刊文春』だろう。3月1日号では「衝撃スクープ」と銘打ち、「郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い!」と報じた。
概要はこうだ。
札幌市内の内科医らが、福島第一原発事故に伴う放射能の影響を調べるため、市内に避難している親子309人(大人139人、18歳以下の子供170人)を対象に甲状腺検査を実施した。
その結果、甲状腺エコー検査を実施した内科医の話として、「しこりのあった7歳女児と4歳以上の男児の2人に加え、19歳以上の『大人』9人の計11人に、甲状腺がんの疑いがある」と報じたのである。
しかし、この表現は真実とは言い難い。
正確には、検査を受けた18歳以下170人のうち、5ミリ以下の結節や20ミリ以下の襄胞が認められたのが30人、5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上の襄胞が認められた(B判定)のが4人である。
これはすべて「良性腫瘍」の話である。悪性(C判定)であれば、すぐさま細胞診の必要があるが、これに該当した子供は1人もいなかった。週刊文春は、この良性の甲状腺結節でB判定となった子供たちが細胞診を受けていないから、「甲状腺がんの疑いがある!」と言い張るのである。
放射線科が専門の中村仁信・大阪大学名誉教授がいう。
「医学的に見て、大腸を除いて良性腫瘍(結節)が悪性腫瘍(がん)になることはまずない。真実は『診断の結果は全く問題なかった』ということ。記事の冒頭には、“今までにこんな例は見たことがありません”という医師のコメントが掲載されていますが、それは当然です。そもそも小さい子供に甲状腺のエコー検査をすることはほとんどないからです。検査をすれば、良性の結節が発見されることに何の驚きもない」
さらに記事は〈7歳女児(検査当時)の小さな喉にある甲状腺に、8ミリの結節(しこり)が、微細な石灰化を伴ってみられた〉と書く。
チェルノブイリでは、小児甲状腺がんの兆候が見られたのは、被曝から4年ほど経ってからだった。原発事故から1年も経たずに「石灰化」しているのなら、それは当然原発の影響ではない可能性が高い。
母親たちの不安を煽るだけ煽った疑問符だらけの記事。発売後のリアクションは無残なものだった。
エコー検査をした当人である「さっぽろ厚別通内科」の杉澤憲医師が、弁護士を伴い文春の記事に大反論を展開。自身のコメントについて「そのような話はしておりません」と全否定した上で「良かれと思ってやったことが、このように(記事として)出されてしまったことで多くの人を不安に陥れてしまった」と苦悩を滲ませた。
週刊文春編集部は「記事は、福島などから自主避難した人々の甲状腺に異常が見つかったこと、その事実を受けて、現状に沿った健康被害への対策を講じる必要がある、と主張したもの」で「煽り報道とは考えておりません」と抗弁するが、記事の根幹が崩壊してしまったことは間違いない。
“面白ければ間違いでもいいや”という無責任と、科学的に正しいことと正しくないことは明確に区別されるという当然のリテラシーの欠如がはっきりうかがえる。報ステと全く同じだ。
※週刊ポスト2012年3月16日号