公務員ランナー・川内優輝(25)は2月末の東京マラソンで3度も給水に失敗し、不可思議な失速をした。東京マラソンでは、注目された川内ではなく、藤原新(30)が2時間7分48秒のタイムで2位となり、五輪代表の切符を確実にした。昨年、所属チームを脱退して“無職ランナー”といわれる藤原も、川内と同じ「非実業団選手」だ。
ある陸連関係者が匿名を条件に語った。
「正直、3人の五輪代表のうち2人も非実業団選手に独占されては困ります。特に川内は、これまでのエリートランナーとは違うやり方で成長してきた選手です。彼のようなやり方で勝てることが喧伝されると、“実業団や陸連は高いカネをかけて何をやっているんだ”という批判が起きかねない」
公務員の川内は、平日の走行練習は出勤前の2時間だけ。体作りは、手作りのダンベルとゴムチューブを使って寝る前に行なう。恵まれた練習時間とトレーニング設備を与えられ、遠征や合宿にコーチまでつけてもらえる実業団選手としては、野山を1人で駆け回る川内に負けるのは、屈辱以外の何ものでもないだろう。しかも、そんな川内が“市民ランナーの星”として国民人気を一手に集めているのだからなおさらである。
実際、実業団陸上部の関係者はこういうのだ。
「川内の活躍に、実業団の選手や指導者は苦々しい思いをしています。コーチやトレーナーも必要なく、練習も空いた時間で十分ということになれば、経営者に海外遠征や合宿の費用が必要なのかという疑問を抱かせる。企業陸上部の存廃議論に発展しかねない」
企業は陸上部に広告媒体としての役割を期待している。自社名を背負った選手をTV放映のあるレースに出場させることが、実業団陸上部の目的である。特に放送時間が長く、高視聴率の期待できるマラソンや駅伝には最も力を入れてきた。
一方の陸連は、その実業団に指導者を送り込む。強化委員会、普及育成委員会など、各種委員会を立ち上げて、選手の育成を行なってきた。
「陸連の強化委員をはじめ、各種委員会幹部が実業団の監督や顧問を務めるケースが多い。代表選考には、こうしたつながりや、早稲田大、筑波大、順天堂大といった学閥が影響する面は否めない」(同前)
学習院大卒の公務員・川内は、そんなしがらみなどお構いなし。かねてから「陸上界の前例を壊す」などと公言し、“異端児”を自任する。陸連を中心とする「マラソン村」にとって眉をひそめたくなる存在だったことは想像に難くない。
※週刊ポスト2012年3月16日号