民主党の前原誠司政調会長が産経新聞記者の会見出席を拒否した件が話題となった。同紙が前原を「言うだけ番長」と評したことが気に入らず「受容の限度を超えた」のが理由だという。
産経は「前原氏の言論感覚を疑う」との社説を掲げ「自由な言論こそ健全な民主主義社会の基本であることを、民主党の前原誠司政調会長は理解しているのであろうか」(2月25日付)と全面的に批判した。東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏は、この批判にまったくの同感だという。以下は、長谷川氏の解説だ。
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在京紙の中で産経新聞の政治報道は異色であり、読み応えがある。民主党政権に批判的な立場を貫きながら、政権のみならず与野党の内幕に迫る記事を書いている。ここぞという場面で勇気をもって書いてきた実績で言えば、産経が一番ではないか。
前原の姿勢は政治家として自分の首を絞める結果にもなりかねない。政治家が記者会見するのは、自分の見解を広く社会に知ってもらうためだ。ところが、産経だけを締め出すと、読者は「産経が政治家に不都合な真実を伝えているからだ」と理解して、むしろ産経の報道を信頼するようになる。
一方、他社は「ウチは前原にゴマすっていると読者に思われたら大変だ」と警戒心が高まって、前原に批判的なバイアスが高まる可能性がある。前原への単独インタビューも当分、控えるようになるのではないか。そうなると発信力低下に直結する。
前原は結局、会見拒否を撤回した。産経もこの際、思い切って普通の会見取材や記事とはおさらばしたほうがいいのではないか。会見の発言内容は通信社が配信するのだから、第一報は共同や時事に任せて、産経はこれまで以上に独自の分析記事に力を入れればいい。そのほうが一層、紙面が面白くなるに違いない。(文中敬称略)
※週刊ポスト2012年3月16日号