2月23日、テレビ朝日『報道ステーション』(報ステ)が、緊急時避難準備区域だった福島県南相馬市内の歩道の所々に黒い藻のようなものが発生し、そこだけが高い放射線量を記録していると報じた。
これには専門家らから異論が出ているが、さらに看過できないのは、一部の反核市民団体が、「この黒い物質はプルトニウムだ」という悪質なデマをまき散らし、付近の住民を恐怖に陥れた疑いが持たれていることだ。
プルトニウム239を経口摂取した場合、被曝量はセシウム137の約20倍になる。しかし文部科学省が第一原発周辺で土壌を調べたところ、どの地点でも事故前の観測の最大値を上回るプルトニウムは検出されていない。
つまりそれは、同じ人工的な放射性物質でも、過去2000回以上も行なわれた核実験や1986年のチェルノブイリ事故によって、原発事故の前から日本に多く降り積もったプルトニウムなどのほうが、今もはるかに多く日本人を被曝させていることを示している。
逆にいえば、少なくともプルトニウムに関しては、今回の事故の被害はそれほどごく小さなものなのだ。にもかかわらず、水の19.8倍の比重がある重金属のプルトニウムが、南相馬市で目視できる塊になって転がっていることは、常識で考えてありえない。
この団体は、「黒い物質がプルトニウムだと触れ回ったのは団体の一会員に過ぎず、我々の見解ではない」とデマ発信説を否定する。しかしネット上では、南相馬でプルトニウムが検出されたかのように記した記述が散見されており、デマ拡散の影響は大きい。
もっと驚くのは、報ステの怪しい報道そのものが、この団体を「ネタ元」にしたものらしいことだ。番組内で団体の会見内容を引用し、団体関係者の発言も紹介されている。
テレビ朝日に見解を求めると、「番組では神戸大学の山内知也教授の測定データに加え、南相馬市のデータも基として放送しています。また『黒い物体』については番組独自で東北大学の鈴木三男教授に現地で鑑定を依頼し、藍藻であることを確認しています。取材や検証を積み重ねた上で放送しており、ご指摘のような煽り報道には当たらない」(広報部)という。
それでも彼らの報道は、風評被害や福島県民への差別を確実に助長した。
※週刊ポスト2012年3月16日号