太陽光発電とともに期待が高まっている自然エネルギーが風力発電だ。だが、大前研一氏によれば、日本の風力発電には「漁業権」の問題が発生して高額な漁業補償が必要になり、コストがどれだけ膨れ上がるか見当がつかないという。以下、大前氏の解説だ。
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風力発電は大きな問題を抱えている。日本の風力発電の風車は山の上に設置されていることが多いが、本格的に推進するならデンマークやフランスのように海上に建設しなければならない。
しかし、日本には遠浅の海岸が非常に少ないので、基本的に風車は海岸近くの洋上に建設せざるを得ない。そうすると「漁業権」の問題が発生して高額な漁業補償が必要になり、コストがどれだけ膨れ上がるか、見当がつかなくなってしまうのだ。
たとえば、NTTが瀬戸内海の小島まで電話線を敷設するため、途中の海上に電柱を1本建てなければならなくなったことがある。すると、電話線の敷設は島民たちの要望であるにもかかわらず、彼らは漁業補償を要求したのである。その額は数億円レベルだった。
また、関西国際空港を建設した際は、大阪、和歌山、兵庫、徳島の漁民に合計1000億円以上の漁業補償を行なっている。その最大の理由は「空港島を造るとハマチの回遊路が変わる」というものだった。
実際にはわからないが、変わるかもしれないということで、淡路島を挟んだ対岸の徳島の漁民にまで、漁業補償金を支払ったのである。当時、私が関係者から聞いた補償金額は、船1隻あたり1500万円だった。
しかし、関空が開業した結果、本当にハマチの回遊路が変わって漁獲量が1500万円分減ったかどうか、農水省は何も検証していない。つまり、漁業補償は“ゴネ得料”であり、電柱であれ、空港であれ、風車であれ、海上に構造物を建設したら、その数や規模に比例して、どこまでも補償範囲が拡大していくのである。
※週刊ポスト2012年3月16日号