白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏によれば、男勝りの女性は、男性と同レベルの男性ホルモンを合成しているという。以下、白澤氏の解説だ。
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1982年にフォークランド紛争が勃発してから今年で30年が経つ。アルゼンチン軍のフォークランド諸島への侵略に対し、イギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)は艦隊や爆撃機を派遣。2か月間の戦闘の末にアルゼンチン軍を降伏させ、「我々は決して後戻りしない」と力強く宣言した。
保守的かつ強硬なその性格から「鉄の女」の異名を取り、歴史に名を刻んだサッチャー元首相は、文字通り「男勝り」の政治手腕を発揮し、リスクの回避より大義を常に優先していた。しかし、実はこの「男勝り」の手腕、男性ホルモンの成せる業だった可能性が最近指摘されている。
これまでは女性では、「血中テストステロンの濃度は男性の10分の1程度で、あまり役割を果たしていない」というのが定説だった。しかし、米国ノースウエスタン大学のサピエンツア博士らはそれを覆して、3分の1くらいの女性では、男性に匹敵するレベルのテストステロンを合成し、「男勝り」の仕事ぶりの原動力になっている可能性を示唆したのである。
サピエンツア博士らは、500人以上の経営学修士コースの男女学生を対象に、唾液中のテストステロン濃度とリスク回避の関連性を調査した。その結果、女子学生の3分の1は平均的な男性と同レベルのテストステロンを合成していることが分かった。
興味深いことに、高いテストステロンレベルを示した女子学生では、金銭的リスクを回避しない傾向が認められた。さらに、そのような女子学生は修士コース修了後、よりリスクの高い職業を選択する傾向があることも明らかになっている。「男勝り」という言葉通り、男性顔負けの仕事ぶりは、女性が自ら体内で合成したテストステロンによるものだったのかもしれないのだ。
女性の場合、加齢に伴って女性ホルモンが減少すると、更年期を迎える。更年期を過ぎた女性ではホルモンのバランスが逆転し、男性ホルモン優位となって、いわば男性的な人生を歩み始めるともいえる。つまり、パワーや元気さという点で思春期の男の子と似たような状態になるから、韓流スターの追っかけをしたり、群れをなして旅行に出かけたりするのも無理のない話なのかもしれない。
※週刊ポスト2012年3月16日号