東日本大震災から1年。新聞・テレビにあふれる悲劇や美談だけでは大震災の真実は語れない。真の復興のためには、目を背けたくなる醜悪な人間の性にも目を向けなければならない。ここでは原発事故で避難生活を余儀なくされている人々のエピソードを紹介する。
震災後、福島県いわき市で飲食関係の会社を立ち上げた30代後半の男性は憤慨していた。
「原発事故で避難区域となった町から逃れてきた顔見知りが、昼間からパチンコ店に入っていくのを見た。聞くと、震災後に失業手当を受給し、さらに東電の賠償金を貰えるから働くのが馬鹿らしくなったらしい。カネをどう使おうと自由だけど、みんなが復興に向けて頑張っているのに……」
行政による被災者への“生活保護”の厚遇ぶりが、逆に復興を遅らせていると指摘されている。一部の被災者には、「働かない方が震災前に比べて収入が多くなる」という異常なケースが生じているからだ。
厚生労働省によると、岩手、宮城、福島の3県で、震災翌日の3月12日から8月21日までの間に、15万3173人が失業手当の手続きをした。雇用保険から給付される失業手当の額は、退職前6か月間のボーナスを除いた賃金と年齢などで決まるため、「月給40万円で、雇用保険加入期間が10~20年間の場合、最大で月に約20万円」(厚労省職業安定局雇用保険課)となる。
これに加え、東電の賠償金(避難生活等にかかる精神的損害)が一人当たり最大12万円出る。
支出が減っていることも大きい。各種国税の減免など、税金の優遇措置に加え、仮設住宅や借り上げ住宅に住めば家賃は県が負担するため、被災者が支払うのは食費や光熱費程度で済む。自営業者ならば、仕事上必要な経費もかからない。
「例えば漁師なら、原発事故の影響で漁に出られない分、漁船の油代がかからない。結果として、可処分所得が大幅に増えたという家庭が少なくないと聞いています」(被災地のカマボコ工場で働いていた主婦)
福島県漁業協同組合連合会には、原発事故後、東電から過去5年間の漁獲実績により、今年1月までに約76億円の補償金が出ている。これは各漁民に割り当てられ、金額は月に百数十万円に上るケースもあるという。
前出のいわき市の男性はこう語る。
「やることがないから、パチンコ店や競輪に行ったりする。仕事がないわけではないのに……」
※週刊ポスト2012年3月23日号