『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』でおなじみの作家、福井晴敏氏の5年ぶりの現代長編として話題を呼んでいる『小説・震災後』(小学館文庫)。刊行後、注目を集めているのが、主人公の「野田圭介」という名前である。野田佳彦・首相に字面までそっくりだ。
主人公・野田圭介は、放射能の不安に怯える中学生の息子を救うため、中学の全校集会で日本の未来、真の脱原発に向けた演説を行なう。
この展開に、読者の間には「“子供たちの未来”が口癖の野田佳彦・首相を意識したのではないか」「終盤の主人公の演説は、野田首相の所信表明演説へのオマージュ」などの噂が広がっているが、実際はどうなのか。福井氏に聞いてみた。
「実は全然関係ないんです。そもそも小説の週刊誌連載が始まったのは昨年の5月で、野田さんはまだ総理になっていません。むしろ野田さんが総理になったときには、意識していると思われたらどうしようと困ったぐらい。
野田という名字は、主人公・圭介の父親である野田輝夫が重要なんです。輝夫は、『亡国のイージス』に出てくる防衛庁情報局(ダイス)局長で、途中から出てくる防衛省職員の渥美大輔は、『イージス』のときには輝夫の部下だった男です。
刊行時に、勘ぐられるのも嫌だから名字を変えようかとも思ったんですが、輝夫を主人公の父親にするためには、どうしても名字は野田でなければいけなかった」
『イージス』読者なら、この仕掛けに気づくと、輝夫と渥美の言動がさらに面白くなるはずだ。