現役引退から23年。陸上界きっての人気者、瀬古利彦氏(55)は、現在、日本陸連の理事を務めている。マラソン15レース10勝。日本史上最強のランナーの誉れも高い瀬古氏には、男子マラソン復活の期待もかかる。が、こと選考に関しては、「世界で戦える人」を中心に五輪選考を考えたい――と日本陸連の“常套句”を繰り返すばかりであった。
今年の東京マラソンに過去最高の約28万人が応募したように、昨今のランニングブームはマラソンの裾野を確実に広げている。ただ、陸連にとって頭が痛いのは、それが競技レベルの向上に必ずしも繋がっていないことだ。陸上界からの実業団撤退は、昨今の不況で加速するばかりである。
ましてや実業団ランナーが市民ランナーに負けたとあっては、マラソンブームの礎を築いた瀬古氏としても忸怩たる思いだろう。
福岡国際マラソン後、瀬古氏は率直な気持ちをこう漏らしている。
〈実業団選手が情けない。調整で出た市民ランナーに対して、1年間ここを目指してやってきてるんだよ。時間も給料ももらって。あの負け方は納得できない。(中略)今は駅伝やトラックを走りすぎ。マラソンの練習に重きを置かないから、42.195キロの走り方がわかんなくなってる〉(日刊スポーツ・12月5日)
日本マラソンの衰退を実業団の駅伝偏重主義と関連づける考えは、小誌もたびたび指摘してきたことだ。
企業が広告効果として期待する駅伝は、マラソンとは距離も違えば、練習法も異なる。実業団関係者の話。
「実業団対抗のニューイヤー駅伝に勝とうと思ったら、12月の福岡国際に選手を出場させることはできない。1月に走ると2月の東京マラソンは無理です。3月のびわ湖毎日になんとか間に合うといっても1か月の走りこみだけ。そんなコンディションだからマラソンのためにピークを持ってくる非実業団選手に負けたとしても選手を責められない」
※週刊ポスト2012年3月23日号