黄金時代を知るものたちにとってはあまりにも寂しいコメントだった。
「男子は現実的な目標として入賞、女子は願わくばメダルを狙いたい」
日本陸連の河野匡・強化副委員長はロンドン五輪の目標を質され、そう答えた。
男子マラソンの落日は今日に始まった話ではない。だが、女子マラソンに限っていえば2008年の北京で惨敗するまで4大会連続メダル獲得を果たしていたはずだ。今回選出された尾崎好美(30・第一生命)、重友梨佐(24・天満屋)、木崎良子(26・ダイハツ)に金メダルを期待する雰囲気は皆無だ。
バルセロナ、アトランタで銀、銅の有森裕子とシドニー金の高橋尚子。そしてアテネ金の野口みずき――メダリストたちを世に送り出してきた“陸上界の重鎮”が発する言葉は、危機感に溢れていた。
アテネ金メダルの野口を育てたシスメックス前監督・藤田信之氏の口調は厳しい。
「最近の選手というのは、練習で自分を追い込んでいないんじゃないか。故障するかもわからんけど、そこを紙一重でウチらはやってきた。やっぱり練習量ですよ。加齢によって練習量を考慮しないといけないのは確かやけど、そこはブレちゃいかん」
選手選考についての話を振ると、顔をしかめた。
「選考レースを見ていると、五輪に出ることが目標になっているのではないかと感じる。個人的な考えを述べさせてもらえば、(選考に)3回も出るなんておかしいでしょう。野口のときは本番でどう戦うか、いかにして世界一になるかしか考えていなかった」
藤田氏がさしているのは、3月11日の名古屋ウイメンズマラソンで2位に入り、ロンドンへの切符を勝ち取った尾崎のことだ。
尾崎は昨年8月のテグ世界陸上、11月の横浜国際女子に続き、ロンドン五輪選考レースに出走している。五輪への執念は買いたい。
だが、名古屋では、35km地点でスパートしたマヨロワ(ロシア)に抜かれてもそれを追わず、あくまで日本人最高位にこだわった。選考ありきのレースに藤田氏は、違和感を拭いきれなかった。
有森、高橋ら数多の名ランナーを育ててきた佐倉アスリート倶楽部代表の小出義雄氏も、名古屋のレース展開を踏まえてこう語る。
「金を獲るには、金を獲る練習をやらないといけないんです。練習量は嘘をつかないですからね。嘘をつくのは女房だけ(笑い)」
小出氏は、10年前と現在では「選手の気質」が変わってきた、と嘆いた。
「大きな声じゃいえないけど、最近の選手はすぐ泣きごとをいう。駅伝重視でマラソンを知らないような会社の上の人に選手が訴えて、すぐに監督やコーチに『練習を休ませてやってくれ』となる。Qちゃんの時は、会社と喧嘩してでも練習したよ。今の教え子たちの5倍は走らせていました。日本女子の上位5人を絞ったら(練習させたら)まだまだ世界と戦えると思うよ」
今回の選考は順当と報じられている。しかし、藤田氏や小出氏は、五輪に「出場」することよりも「勝利」することに比重を置くべきだと述べた。
※週刊ポスト2012年3月30日号