『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』でおなじみの作家、福井晴敏氏の5年ぶりの現代長編として話題を呼んでいる『小説・震災後』(小学館文庫)。
主人公・野田圭介(野田佳彦総理のことは意識していない)は、放射能の不安に怯える中学生の息子を救うため、中学の全校集会で、日本の未来、真の脱原発に向けた演説を行なう。この演説で話題を呼んでいるのが、「太陽発電衛星(SSPS)」だ。
宇宙空間の人工衛星で集めた太陽光を電力に変え、マイクロ波のビームに変換して送電するシステムである。人工衛星が発電所の役割を果たし、地上の中継基地を介して各家庭に電気を送る。雨や曇りなど天候の影響を受ける太陽光発電と違い、宇宙にある太陽発電衛星は常に稼働率が100%だ。主人公はこう言う。
〈たとえばこれを五十四基打ち上げて、国内にある原発をまるごと肩代わりさせるのも不可能じゃない。いや、震災前の国内の原発稼働率が六十四パーセントだったことを考えると、三十基もあれば十分でしょう。なにせこっちは、太陽が存在する限り稼働率百パーセントですから〉
すでにNASAやJAXAで研究が進んでいるこの技術だが、最大の難題は、地上の中継基地に最低でも直径5キロ程度のアンテナが必要なことだ。それほど大規模なアンテナを置く場所が、日本のどこにあるのか? 主人公が提案するのは、何と福島第一原発の警戒区域内である。
〈(原発の)半径三キロ圏内なら、直径五キロのアンテナと周辺設備がぴたりと収まる。(中略)すべての日本人に絶望を突きつけた場所が、新しい未来の始まりの地になるんです〉
作者の福井晴敏氏が、「日本中が、後ろ向きな『自然に還る派』と、無反省な『原発推進派』に分断されるなか、前向きな未来の可能性のひとつとして提示した」という「太陽発電衛星」。今後が注目される。