日本の新幹線の、安全性や停車駅の異なる列車を1時間に10本以上走らせる芸術的な運行システムは世界に類がない。しかし新幹線の輸出はしんどいのでは、と語るのが大前研一氏だ。同氏は、リニアにこそ大きなビジネスチャンスがあるという。以下は、大前氏の解説だ。
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いま日本は官民挙げて新幹線の輸出に熱心だが、1964年に完成した50年前の技術を輸出するのは、かなりしんどいと思う。開業時から改良を重ね、安全性や停車駅の異なる列車を1時間に10本以上走らせる芸術的な運行システムは他に類がないとはいえ、画期的な技術革新はないからだ。
一方、フランスのTGVは最高時速575キロ、営業運転時速320キロである(日本の新幹線は最高300キロ)。中国の高速鉄道は昨年7月の追突事故で評価を落とし、営業運転時速も350キロから300キロに引き下げたが、価格は日本より格段に安い。新幹線はスピード競争ではフランスに、価格競争では中国にかなわないのだ。
しかし、リニアは違う。競争相手はドイツのシーメンスだけである。すでにシーメンスは上海の浦東国際空港・龍陽路駅間などでリニアを実用化しているが、その距離は約30キロにすぎない。日本の山梨リニア実験線の18.4キロ(2013年度に42.8キロへの延伸工事が完成予定)に毛が生えた程度であり、まだ十分に勝ち目がある。
だから日本は新幹線ではなく、リニアを輸出すべきだと思うのである。
※週刊ポスト2012年3月30日号